第13話 バスケイベントがキタアア!
放課後。ダンスのレッスンを終えた僕たちは、制服に着替えて寮へ向かっていた。その途中で、
「おーい、えいちゃーん!」
「おー、お前らも終わったのか」
「うん、一緒に帰ろー」
瑛士くんが合流したところでステータスを確認する。
【
高校1年生
アイドルランク ノーマル
ダンス 18
歌 16
演技 11
スキル ビッグバン
(演技が2上昇してる。一桁台を解消できたのは良かった)
瑛士くんを見つめていると、
「
「んだよ? 俺の顔に何かついてるか?」
「ああ、いえっ! そう言うわけでは……」
みんなから注目されてしまい、慌てて両手を振って否定した。すると話題の中心が僕に移る。
「そう言えばさ、しおりん体力がなさ過ぎてヤバいんだよ」
「あー、ダンスのレッスンでもへばってたなぁ……」
海斗くんは苦々しい表情で頷く。どうやら海斗くんにも情けない姿を見られていたらしい。
二人の会話を聞いた瑛士くんが、こちらをまじまじと見つめる。
「確かに夢野はひょろっちいし、見るからに体力なさそうだもんな」
瑛士くんの視線につられるように、僕も視線を落とす。確かにこの身体は全体的に細い。線が細いと言えば多少聞こえはいいが、端的に言えば貧弱で頼りない。多分、もっと筋肉を付けた方がいいんだと思う。
「鍛えます。筋トレとか走り込みとかして」
基礎体力を付けるためにも、普段のレッスン以外でもトレーニングをした方が良さそうだ。よしっと小さく意気込んでいると、みんなから温かい眼差しを向けられた。
「素直でいい子」
夏輝くんの言葉に、みんながうんうんと頷く。ぽわんとした雰囲気の中、海斗くんが何かを思いついたかのように言った。
「どうせなら部活に入ってみたらどうだ?」
「部活、ですか?」
「ああ、うちの学園はアイドル活動優先だから、普通の学校みたいに大会目指してガチでやる部活はないけど、気分転換に身体を動かすことはできるぞ。ちなみに俺はテニス部、夏輝はバスケ部に入ってる」
なあ、と夏輝くんに話を振ると、笑顔で頷いた。
「うん、バスケ部は週2で集まる、ゆるーい部活だけどね」
そう言えば、海斗くんはテニス部、夏輝くんはバスケ部という設定だった。本編では部活のシーンはあまり登場しないから忘れがちだったけど。
そこで夏輝くんは、今朝のユニフォームのことを思い出す。
「あ、そっか! 今朝届いたユニフォームは部活のやつか!」
合点がいったようにぽんっと手を叩く。その反応を見ながら、今朝のガチャのことを思い出した。
(あのユニフォームを着てバスケをしているシチュも見てみたいなぁ。絶対カッコいい)
夏輝くん推しとしては、ぜひとも拝みたいシチュエーションだ。お願いしたら着てくれるだろうか?
妄想を膨らませながらじーっと見つめていると、夏輝くんがきょとんとした表情でこちらを見る。
「どしたの、しおりん?」
「あ、えっと……」
ガン見していたのがバレてしまった。咄嗟に言い訳を探す。
「せっかくだから、着てみたらどうかなって、ユニフォーム……」
ダメだ。言い訳にもなっていない。願望がだだ漏れだ。
「なんでいま?」
そんなの僕が見たいからに決まってる!
……なんて言えるはずもなく、視線を泳がせる。
「とくに理由はないんですけど、うー……そう、試着! 試着です! サイズが合わなかったら変えてもらわないと!」
試着とかこつけてみたが、夏輝くんは依然としてきょとんとしている。当然だ。部外者が突然試着してみたらどうかなんて提案するのは不自然だろう。
「別に着るのはいいけどさー……」
「本当ですかぁ!?」
まずい。嬉しさのあまり本音が……。顔が熱くなるのを感じながら俯いた。
変に思われてないか心配になってチラッと視線を上げると、夏輝くんがこちらを凝視していることに気付く。ぱちんと視線が交わった直後、夏輝くんは何かを思いついたかのようににんまり笑った。
「着るのはいいけど、ただで見せるわけにはいかないなぁ」
ちょっと意地悪な表情。そんな表情もグッとくる、と舞い上がってしまったが、言葉の意味を理解するとサッと青ざめる。
(そうだ。推しの尊い姿をただで拝もうなんて、図々しいにもほどがある)
僕はすぐさま鞄から財布を取り出す。
「あの、いくら払えば……」
「そーじゃないって! 金積もうとしないで!」
夏輝くんは驚いたように叫ぶ。課金制かと思いきや、そうではないらしい。とりあえず財布はしまう。
夏輝くんは、はああっと呆れたように頭を抱えたが、すぐにこちらに向き直る。
「お金じゃなくて、身体で払って」
「身体で!?」
身体で払うなんていやらしい意味にしか聞こえない。夏輝くんにエロを結びつけるなんて絶対にダメなのに。
邪な考えが浮かびそうになる僕とは対照的に、夏輝くんは晴れた空のように爽やかに笑った。
「しおりん、俺と勝負しようよ」
~☆~☆~
(どうしてこんなことに~!)
僕は体育館の隅で体育座りをしながら頭を抱えていた。推しの尊い姿を拝ませてもらう対価として、バスケ勝負を挑まれてしまったからだ。
推しがバスケをするのを眺めるのは嬉しいが、推しとバスケをするのは荷が重すぎる。ただでさえ、バスケには自信がないのに。
体育の授業でもボールが回ってきた記憶はほとんどない。存在感が薄いから仕方ないんだけど……。
ちなみにゲーム内でのバスケイベントでは、夏輝くんと聖くんが勝負をしていた。マネージャーである夢野詩音は、二人の勝負を見守っていただけだ。
(僕だって傍観者Aでいいのに~)
一応、体操服に着替えて、体育館シューズに履き替えたけど、心はまったく準備できていない。憂鬱になりながら項垂れていると、海斗くんが心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫か? 詩音」
「海斗くん」
助けて……と念じながら視線を送っていると、海斗くんは苦笑いを浮かべながらぽんと肩を叩いた。
「そんなに気負うなって。ただのお遊びなんだから」
「そう、なん、ですけど……」
ただのお遊びというのは分かっている。別に何かを賭けているわけでもない。それでもあまりに無様な姿を見せて、夏輝くんを幻滅させてしまうのが怖かった。
すると、瑛士くんがチッと舌打ちをしながら頭を掻く。
「つーか、夏輝も自分の得意分野で勝負を仕掛けるなんて何考えてるんだ? 実力差を見せつけて悦に浸りたいのか? そんなダセぇ奴だとは思わなかったけどなっ」
「まー、夏輝も何か考えがあってのことなんじゃないか?」
「だといいけど」
心配する二人をよそに、
「二人のアツイ勝負、この俺が見届けてやろう!」
高笑いをする聖くんを見て、瑛士くんがもう一度舌打ちをする。
「るっせーなっ! つーか、なんでお前も体操着に着替えてるんだよ!」
「二人の勝負が終わったら、俺も夏輝に勝負を挑むからなっ!」
聖くんの度胸の百分の一でいいから分けてもらいたい。そんなことを考えていると、扉が開いた。
「お待たせ~」
僕はハッと顔を上げる。
【SR 涼風夏輝 バスケVer】
その姿を目の当たりにして、僕は爆死した。
(SRの破壊力はヤバイ。なんでこんなにカッコいいんだよぉぉぉ)
夏輝くんが着ているのは、赤の布地に白字で背番号の入ったユニフォーム。タンクトップから伸びた腕にはほどよく筋肉が付いていて、V字の襟元からは鎖骨が覗いている。ゆるっとしたハーフパンツの下からも、引き締まった脚が伸びていた。
夏輝くんは可愛いキャラという印象が強いから忘れがちだけど、案外身体つきはしっかりしている。露出の高い恰好をしていることで余計に思い知らされた。
これがギャップ萌えというやつか。まさかバスケのユニフォームに殺される日が来るとは思わなかった。あまりのカッコよさに直視することさえままならない。
体育座りをしながら顔を埋めていると、またしても海斗くんに心配される。
「そんなに嫌なら辞めとくか? 夏輝も鬼じゃないから分かってくれると思うぞ?」
(これは絶望しているのではなく、歓喜しているんです)
なんて言えるはずない。
とはいえ、やっぱり勝負は荷が重い。辞退できるならどれほど気が楽か。
だけど、既に報酬は得てしまった。尊い姿を見せてもらったのだから、いまさら辞めますなんて言うのは失礼だろう。
「やり、ます」
なんとか宣言すると、海斗くんにポンと背中を叩かれる。
「そうか、じゃあ行ってこい」
「はい……」
僕は重い腰を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます