11-3:第1章

 チョッピィが自爆特攻を仕掛ける少し前。


 満身創痍のバジュラは、敵に大きな一撃を与えた直後だというのに、焦っていた。


(ディムは全身に電撃の鎧を纏っている。

 これに触れれば、想像以上のダメージを受けた。

 今も右の握力が少し落ちている感じがする。

 恐らくさっき斬った時よりも“深く”攻撃しようと思えば、上手くいっても精々が同士討ち。

 下手をすれば、攻撃が届く前に私の方がお陀仏、なんてことも余裕で有りうる。


 ショットガンもダメだ。

 さっきの男も何度となく撃ちこんでいたが、結局奴に届いたのは最後の自爆のみ。

 ――――どうして自爆は届いた?

 意識外の攻撃だったから?

 いや、恐らくある程度は無意識でガードしている様子だった。

 爆発は防ぎきれないから?

 だから落ちていた看板を引き寄せて守りを固めた?


 そうだとしてどうする?

 手持ちに爆弾なんてない――――)


「嬢ちゃん、考え事は纏まりそうかい?

 だが、こっちも痛手を負っちまった。

 サービスタイムは……そろそろ仕舞いだ!!!」


 出血の衝撃からある程度回復し、ディムはバジュラに向き直る。

 すると全身に纏うようにしていた電流が更にバチバチと激しく音を立てる。


「装備によって指向性を強化して、威力も上げていたがなあ!

 この力の本来の使い方を教えてやるぜぇ……!!!」


 電撃は激しさを増す。

 今度は左手で狙いを定めたりはしない。

 無差別に周囲を襲い掛かる電気の鞭。

 速さも威力も先程よりは劣っているが、今度は不規則な攻撃過ぎて回避が難しい。


「そんなんアリかよ……!!」


 バジュラは咄嗟に回避行動を取る。

 始めと同じ、後ろへの跳躍だ。

 それでも纏わりつくように、周囲を埋め尽くした電撃を避けきれない。

 バジュラの左手に、電撃が掠める。


「あ゛あッっぐ!!?」


 掠めた電撃は体を破壊する威力こそ無かったが、辺りどころも悪かったのか、バジュラの握力に強い痺れを残した。

 衝撃でショットガンを落としてしまい、銃は滑るように後ろへ飛んでいった。


「なにが威力では劣るだって!?

 こっちの方が厄介じゃないか!!?」


 急いで銃の元へ駆け寄ると、スライディングしながら刀を口に咥え、右手でショットガンを拾う。

 右手も握力は落ちていたが、だらんと垂れ下がったまま動かない左腕よりはマシだった。


「サービスタイムは終わりだって言っただろう!!?

 認めてやるよ!!!

 お前はオレ様と人間だァ!!!!」


 そう叫ぶディムの右腕も、先程からぶらんと下に降ろしたまま、動いていない。

 無理な止血をした影響か、銃の狙いを付けられる程の回復には至っていないのだろう。


 代わりとばかりに左手に持ち替えたハンドガンでバジュラを狙う。


(あの状態の電撃には、距離に制限でもあるのか……!)


 一定距離――――といってもショットガンの有効射程かも怪しい程度には離れた距離。

 そこまで離れると、電撃の鞭はのたうち回るのみで、バジュラの元に届かなくなる。


 その分の攻撃はハンドガンが担う。

 今の所は避け続けられているとはいえ、その威力もかなりのものだ。

 恐らく掠めただけで肉が弾けるほどの。


(電撃がブレているように……見える。

 あの状態を維持するには、それなりに体力が必要なのか?)


 定期的に呻いては、空を見上げてしまうディム。

 その度に彼の纏う電撃は、ぱりっと不自然な音を鳴らして、空中で霧散したり途切れたりするのが見えた。

 先程のバジュラの一撃で、彼に大きくダメージが残っていた。


(なら……勝機はゼロじゃない……!!)


 一瞬で気持ちを“前進”に切り替える。

 軽い前傾姿勢を取り、放たれた弾丸を首の動きだけで避け、思いきり踏み込んで、飛び出す。


(さっきより威力が弱いなら……!)


 左手はまだ動かない。

 バジュラは右手に構えたショットガンを撃ちこむ。

 不規則な電気の鞭は、散弾を巻き取って、その弾丸の軌道を変える。


(要は鎧の範囲を広げたものか……!)


 電気の鞭の本質は、彼の纏う電気の鎧そのものだった。

 襲い掛かるものを電流が巻き取り、その軌道を変える。

 近付くものには容赦なく電撃を浴びせる。

 その効果範囲を拡大したものが、この『電撃の鞭』であった。


(ならば散弾に対する防御を優先するハズ……!!)


 バジュラの方針は変わらない。

 突撃。射撃。斬撃。


 一心不乱に前へ走る。

 レバーアクションショットガンを右手だけで回し、その流れでレバーを引く。

 『スピンコック』と呼ばれる方法で、無理矢理な排莢、そして次弾が薬室へ収まる。

 『銃を痛めるから』と、今までやってこなかった事を即興で試す。

 指先まで感覚を研ぎ澄まして、思いつく限りの方法で、ただ前へと進む為に、彼女はショットガンを構えなおす。


 更に射撃。

 電撃は霧散し、散弾を受け流す。

 バジュラはもっと前へ。


 銃を回す。

 排莢、装填、射撃。


 それを二回ふたまわし。

 もう次弾は無い。

 これが最後の攻め筋。


 ショットガンを手放して、その手に刀を取る。


勢漸せいぜん――――」


「読んでるよ」


 ディムの声。

 チェーンガンの回る音。


「ふざけっ……!!!」


「悪ぃな」


 轟く爆音。

 バジュラは咄嗟に右へ舵を取る。

 チェーンガンから噴き出す、弾丸の濁流。


 それは未だ麻痺が残り、垂れ下がっていたままのバジュラの左腕を巻き込む。


 バジュラは転がり落ちるように走る。

 異常な硝煙の量と、巻き上がる地面を抉った後の塵。

 それがある程度収まるまで、ディムはチェーンガンの発射を控えた。


 土煙が去った後、そこにはまだ、バジュラが死なずに立ち続けている。

 そしてその左腕は、肘から下が無くなっていた。

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