5「アイテム」:第1章
「きたきたきたきた!!!
ようやく『この街』の洗礼を受けてるって感じがしてるよいい感じだよ!!!」
「なあエイジ……!
この子ずっとシェイク離さないんだけど……!
シーカ。そんなにこれ気に入ったのか?」
逃げている途中で、シーカはニノマエにお姫様抱っこされていた。
人一人抱えても先を走るエイジに置いていかれそうな素振りはなく、軽快に走っている。
シーカはじっとニノマエを見ると、こくりと頷いた。
シェイクを気に入った証拠のようにストローから口を離さない。
「……どうしようエイジ!
この子……!
やっぱりかわいいかもしれない……!!」
「……まあおねーさんがそれでいいならいいんじゃない?」
エイジは肩を落として投げやりに言う。
首をかしげて不思議そうにするニノマエ。
中庭を抜け、建物内のショッピングエリアを通り抜け、再度屋外へ出る。
小さなコースターまで置いてある、モール内の遊園地が見えてくるので、そこを突っ切る。
パンフレットによれば、遊園地を抜ければ駐車場がある。
そこで適当に足を“用意”するもよし、そう思わせるように細工して一旦隠れるもよしという算段だ。
*
目的地まで後少し、駐車場を囲っている金網フェンスがようやく見えてきた。
そして行く道を塞ぐように居る集団。
見るからに先ほどのスーツ3人組と出所が一緒である。
「あー。
そりゃ、足が置いてありそうなところは張ってるよねえ」
「ど、どうする?」
「後ろ来てないっぽいし、一旦隠れ……いやバレたね。
ざんねん」
一人が耳に手を当て、何かを喚いていた。
電話か無線機か、その耳にはイヤホンが収まっている。
その一人がこちらに気が付いて指をさす。
今の時代には珍しく、左頬に大きな傷跡を残した男だ。
次第に近くにいたスーツの男達が集まりだし、指を指した方向、エイジ達に向かって走り出す。
「見つけたぞ!!!お前ら行け!!!
とっとと始末して攫ってこい!!」
傷跡の男は追手の中でもリーダー格なのか、自分からは走らずに指示だけを飛ばす。
「武器があれば突破でもいいんだけどねえ」
「や、やるのか!?
いいいちおう武器はあるけど……!」
「おねーさんビビりすぎじゃない?
なんでこの仕事受けたのさ」
「びびびびってねえし!
あんま慣れてないだけだし!」
決して馬鹿にしている風ではないが、エイジも思わず半笑いになる。
シーカを地面へ降ろしたニノマエは、その表情に気付いた様子もない。
必死になってショルダーバッグのジッパーを開けようと頑張っていた。
スーツの集団はこちらへと駆け出してきている。数は8名。
ジャケットに隠したホルスターから全員がハンドガンを取り出し、そのうち二人はサブマシンガンを持っていた。
“慣れてないだけ”の人は未だに武器を取り出せていない。
(あの数でこの距離はおわったかなー。
ってかなんでホルスターのリボルバーを抜こうとしないんだろ。
弾切れとか?)
自分で銃の一つでも調達しておけばまだなんとかできたかもしれないが、ないものを言っても仕方がない。
ニノマエの脇に、ホルスターに収まった銃が見えたが、女性の胸元に手を突っ込む気が起きなかった。
幸いここは出店が立ち並ぶ細い通りだ。
横に広がれない為、走って来る8人一斉に撃たれる心配はない。
まだそれなりに相手とは距離があり、障害物も多い。
その為、無駄撃ちを嫌ってかまだ銃は撃ってこない。
しかしこちらが動けば威嚇射撃くらいはしてくるだろう。
(フルオート弾倉三十発とかあれば……。
いやおねーさんがそんなの持ってるわけが……)
「エイジ!渡すぞ!」
ニノマエが銃を投げる。
慌て過ぎな彼女に最早期待もしなくなっていたエイジも、その銃を見て目を輝かせた。
「“ジャガー”!!!」
獲物を見つけたジャガーのようなフォルムからそう呼ばれるようになったサブマシンガン。
弾倉は10発用のショートから30発用等多種類存在する。
もちろんフルオート機能有り。
素早く手を伸ばして、空中で銃を受け取る。
銃を見上げ、陽の光が少し眩しい。
綺麗にグリップを右手で掴み、重さで落とさないように左手で支える。
「ロング
マガジンの形状を目視で確認しながら、空中から手元へ引き寄せる。
重量で弾が入っていることを確信すると、セレクターをセーフティからフルオートへ変え、射撃可能状態へ。
ストックを開いている暇はない。
反動を考えて腰だめに構える。
素早く銃側部にあるレバーを引き、銃上部の
大丈夫。陽の光で目が眩んだりもしていない。
「おねーさん!あいしてるよお!」
エイジは視線を敵に合わせる。
一連の動作は流れるように即座。
敵もこちらの武装に気がつく。
しかし未だ誰一人としてこちらに銃を向けられてはいない。
ズダッズダッ!ズダダッ!ダダダダダッ!!!
見た目の印象よりも派手な銃声が響く。
サブマシンガンの腰だめ撃ちにもかかわらず、銃弾は敵の頭部へと吸い込まれていく。
サブマシンガン持ちを優先して狙い、始めは指切り射撃で2,3発ずつ撃ちこむ。
見事サブマシンガン持ち二人が倒れた後、もう一人倒したところで他の敵は障害物に隠れてしまった。
少しでも当たればラッキーとばかりに、その後も少しだけ弾をバラまいた。
障害物に当たって、それが貫通したかは一見しただけではわからない。
「3人だけかー。
一旦走るよー」
「ナイスショット!追加ももっとけ!
こっちは準備万端だ!」
ニノマエは既にシーカを抱えていた。
今度はお姫様抱っこではなく右肩に担いでいる。
そして予備のマガジンをエイジに手渡し、空になったショルダーバッグは投げ捨てる。
「ありがとう!じゃあこっちついてきて!」
隠れていた敵が、物陰から出てくる気配。
今度は確実に撃ってくるだろう。
最早最初に考えていた逃走計画が成り立つとも思えない。
けれど他の案を考えている余裕もない。
3人はとにかくその場から離れるために、駐車場へと向かって走る。
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