4-3:第1章
「というか、シェイク買いに行く時に思ったんだけどさ……」
「なに?流石にお腹いっぱい?」
ニノマエは深刻そうな表情でエイジに語り掛ける。
しかし彼はパラパラとパンフレットのページを捲って眺めながら、真剣には捉えていない。
「いや、そうじゃなくて。
この仕事、別に失敗しても構わないとは聞いたけどさ……。
それって結局危ないのは変わらないよな……?
多分アイテムを狙って襲ってくる奴とか、出てくる感じだよな……?」
「え……!?
今更……!?」
ここで初めて手遊びを止めてニノマエに向き直る。
エイジは目を大きく開けて、口が軽く開きっぱなしになっていた。
「いや!!!流石に!!!
エイジの話を聞いた時から、それはわかってたよ!?
じゃなくて、だとしたらここの屋台の店主とか、すごく怪しい気がするんだよ……!」
「え……どうしてさ?」
「だって!!
顔もなんか怖ぇーし!すっげえ無口だし!!
しかもあの店主の腕!!
見たろ?!
あの太い腕!!
私の腰より太かったぞ!!!?」
「えー!おねーさんスタイル良い~!!」
「う……うっせ!!!うっせ!!!!」
腰に手を当て、店主の腕がいかに大きかったかを大袈裟に表したつもりが、思わぬ軽口をうけて動揺で上手く口が回らなくなっている。
「アアアアアアアアミドリガメの甲羅を啜る堕天使がデスゲームをしかけてくるうううううううううううううううううううう!!!!!!!!」
発狂した麻薬中毒者らしき男が、とうとう彼らが滞在する中庭まで侵入してきた。
「あーあー。とうとうここまで来ちゃったよ。
ここのセキュリティガードは免許持ちが少ないのかなあ」
「銃なんてここいらじゃ、免許なんて無くたって、しれっとみんな持ち歩いてるみたいだったぞ?」
そう言っている
ニノマエは顔合わせの時から持っていた細長いバッグと、大きめのショルダーバッグを持っている。
だがエイジとシーカに至ってはジャケットもない服装で、どうあがいても武器を隠し持てる姿ではなかった。
「そうはいっても公務員とか国家資格系の職業なら、流石に免許取らないままで仕事に銃は使わないんじゃない?
下手すりゃ“汚職扱い”か、前科は付かなくても普通に解雇でしょ?」
「あー……それもそうか」
ニノマエはミルクシェイクを堪能しながら、背もたれに寄り掛かるついでに首を後ろまで上げて、背中の騒ぎを覗き見る。
逆さになった景色の遠くの方から両手に拳銃を持った薬中男がわめいているのが見える。
薬中男を中心に人が逃げて離れていく。
薬中男は斜め上へ向けて銃を撃っている為、今の所、銃弾による怪我人等は出ていないようだった。
薬中男はどうしてか、真っ直ぐこちらへ向かってきている。
ふらつきながら視線も定まっていない様子で、何か目指すものがあって歩いてるわけではなさそうだ。
そうは言っても、騒動がエイジ達に辿り着くまで、あと百メートル前後と言ったところか。
「ああいうのも、ここらじゃ日常ってことなのかねえ……」
溜息のように呟くと、ニノマエは体を戻してシェイクを飲む。
周りに見えている『慌てている人』と『落ち着いている人』の比率を見れば、彼女がそう言いたくなるのも頷ける。
流石に周囲にいる人は慌てて逃げ回っているが、遠巻きに見ている人々は『またか……』といったぐらいの表情で我関せずを通していた。
呑気にお茶している彼女たちに何か言えた義理はないだろうが、『他の街』ではありえない光景なのは間違いないだろう。
「ああ……そうだぜ……!
ここは『死が最も遠い街』。
新入り共!!
ニュータウンへ……ようこそ……!」
「ああディーノ。まだいたのか」
「ええっ!?まだいたのかって!?
ひどっ!!!ひどくない!!!?ねえ!!」
吐息交じりのキザっぽい声色で決め台詞を吐いてみたが、どうやらニノマエには響かなかったようだ。
興味なさそうにシェイクを摘まむと、再度背もたれに寄り掛かって世界を反転させていた。
「『死が遠い町』?
……逆じゃなくて?」
「おお……!
そう呼ばれる理由……気になっちゃう……!?」
エイジのリアクションに気を良くして、ウザったらしく身を乗り出す。
ちょっと反応を返したことを後悔したエイジだったが、結局問答は中断を余儀なくされた。
血相を変えたニノマエが顔をこちらに勢いよく戻す。
「まっずいかも」
彼女は手を丸テーブルの反対側にかけ、思いきり跳躍してテーブルを乗り越えた。
天板を背中の方に向けるように、飛んだ方とは逆方向へテーブルを倒す。
重たい金属製の天板は、地面に当たると『コーン』と想像より軽快な音を鳴らした。
エイジは姿勢を低くしながらシーカの肩を抱く。
そのままくるりと少女を回転させるようにして、バックハグのような体勢でテーブルの後ろに隠れた。
シーカはされるがままエイジに抱えられる。
ミルクシェイクは手放さなかった。
その上のクリームを、一グラムすら落としてはいない。
かーん。こーん。こーん。
マヌケな金属音が三つ。
天板を鳴らす。
「おー!案外来るの早かったねえ!」
「言ってる場合か!?
ご丁寧に良い
今のところは小口径のみ!目視で三人!
多分他にも居るっぽい!!!」
ニノマエが焦った様子で、しかし冷静に状況を捲し立てる。
その間にも金属音はいくつか鳴って、その音の鳴る間隔はどんどんと狭くなっていた。
かーん!かん!かんこんかん!!
下手に顔が出せず目視は出来ないが、間違いなく襲撃者達は威嚇射撃をしながら少しずつ近づいてきている。
「おー!ナイス状況報告!
んー。このままじゃジリ貧だしなー」
「いつの間にかディーノの奴居ねえぞ!!?
あいつ散々カッコつけといて逃げやがった!!!」
「あらホントだいつのまに。
まあいいや。
……てかおねーさん。
相手が“穏便に”攻撃してきている間に、無理矢理突破しちゃわない?」
エイジは足を伸ばして自分が座っていた椅子を引っ張ってくる。
ニノマエは細長いバッグを握りしめて少し眺めている。
シーカはシェイクのクリームを噛む。
「“穏便”ってお前銃撃たれて────まあそうだな……。
あー……そうなると、次エンカウントしたら多分もっとまっずい感じになるよなア……」
「それはどのみちじゃない??」
相手が“騒ぎに乗じて”事を起こそうとしている内は、相手も目立ちたくないということ。
なら相手が本気で撃ってこられない今が一番、逃走できるチャンス。
「それもそうだな……っと!」
ニノマエは握っていた長いバッグで、シーカが座っていた椅子をジャグリングの要領で器用に持ち上げて引き寄せる。
そのまま椅子の足を持つと、勢いよく銃撃が来た方角へ投げつけ、叫ぶ。
「おら走れ走れ走れ!!!」
想像以上に側まで来ていたストライプスーツの三人組は、距離が近かったのと予想外の投擲スピードのせいで椅子を避けることが出来ない。
それでもなんとか二人が巻き込まれただけで済んだ。
そして残る一人は逆上。
「てめえ!」
襲い掛かる椅子に意識を取られ、軽く吹っ飛んだ仲間を見て逆上、銃と視線をしっかりと標的に向けて、いざ攻撃再開。
そんなことをしている間に、とっくにニノマエは二投目を用意している。
一投目を投げてすぐさま後ろへ走り出したニノマエ達。
その際、エイジが引き寄せておいた椅子を確保し、それを引き摺りながら持って走っていた。
「おせえよばぁか!」
こちらに銃口が向けられたことを察すると即座に体をくるりと回す。
その勢いで椅子を投擲。
逃走しながら行われたにしては鋭い速度で飛んでいった椅子は、引き鉄を引かせる間も無く相手を吹っ飛ばした。
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