3-4:第1章

「じゃあニノマエちゃんもはい!オレのアドレス!

 これでみんな友達の第一歩を踏めたってェ……ワケやな!」


 自称マイケルは心の底から嬉しそうに―――お面越しだが―――『あーっはっは!』と声をあげて笑う。


 小気味よくサムズアップをしながら『友達』と言われると、ニノマエとしてもなんだか憎めなく思えてくる。

 ウザいものはウザかったが。


「ほんじゃまあ!

 “友情の証に”と言ったら下世話になるが、おにいさんが色々教えといてやろー!」


 腰に手を当て胸を張る自称マイケル。

 猫背気味だった背が伸びて、意外に身長が高いと初めて気が付く。


 共鳴するように、何故か“メメちゃん”も後ろで同じポーズを取って胸を張っていた。


「まず今回の依頼。

 きな臭い!!!「きな臭い!!!」」


 急にメメちゃんが主張を始めた。

 自称マイケルに合わせて、輪唱するように言葉を重ねている。


「仕事持ってきたスーツ三人衆は、この街で『カモッラ』と呼ばれる犯罪組織のメンバーの、上から数えた方が早いくらい偉ぁーい幹部だ!「エラぁーい!」


 そんな奴らがわ・ざ・わ・ざ“日雇い仕事”に来た人間に、自分で説明して報酬も手渡しなんてそんなことまぁぁぁぁぁぁやらん!!!「やらん!」


 報酬もバッカ高い。

 ただの“運送業デリバリーサービス”の前金で百万ポンとくれることなんてまず!ない!「ない!」


 『妨害が予想されます』なんて言っとったが、そんなん“運ちゃん”やるなら警戒するのは当たり前!

 つまりいつもどおりに考えてたら怪我じゃ済まないぞ!ってなもんよ!「もんよ!」


 今日集まってた奴らも、ただのデリバリーだったらぜぇぇっったい来ない!

 そんな有名人ばっかりの顔触れ!「ぶれ!」


 “シビリアン”なんて今日は四人で来てたし「よん!」

 “マオミィ”は相変わらずおっかねえし「みぃ!」

 “ルサンチマン”のおっさんは、いつフッと武器出すかわっかんねえし「ふっ!」

 “ボガート”の奴らはいつもいつもイッちゃってるし「いー!」

 ってうるせええええええええ!!!!邪魔くせええええええ!!!!」


 メメちゃんがノッてきたのか声も身振りも大きくなり始めた辺りで、自称マイケルは思い切り振り返る。


 振り返った先には手をわなわなと震わせたメメちゃんが


「あっ……わっ……ふぁ……ああ……」


 と、今にも涙腺を暴発させそうにさせながら声を漏らしていた。


「わあ!ごめん!ごめんよお!

 ちがうよメメちゃん!

 今のは“ツッコミ”♡

 愛のある“ノリ”ってやつよぉ♡……ね?

 だからそんな顔しちゃやあよ♡

 もっとハッピーに笑顔でいようぜ!

 ……その方が…『ッ…カッ!!(舌を鳴らす音)』…キュートだッ……ぜッ……!?(吐息の多い声)」


 ――――――バカップル……?


 いや、自称マイケルがやると姪っ子を適当にあやしているようにしか見えない。

 多分そこに恋愛的要素はなく、馬鹿がじゃれ合いに興じているだけ。

 そんな風にしか見えなかった。


 全体的に鬱陶しいせいでそう見えるのかもしれない。


 だがそれで上手く取り繕えたのか、メメちゃんはケタケタと笑っていた。


(ああこの子も、最初の印象とは程遠く……。

 なんだか『赤ちゃん』みたいな子だ……。

 こいつらのやり取りは全部おちゃらけだと思った方が良さそうだ……)


 ニノマエは『コイツと関わると無駄な疲労だけがどんどん蓄積させられる……』と、そろそろ気が付き始めていた。


「おああああ!!!いっけね!!!

 お買い物の待ち合わせしてたのに間に合わねえじゃん!!

 悪い!!!本当は“新入り”のフォローしてやりたい所だったんだが、今日はちょっと間が悪かったわ!!!

 仕事中でも、困ったらいつでも連絡してきてな!!!じゃあな!!!!」


「おお!じゃあねマイコー!!!

 色々教えてくれてありがとー!!」


 嵐のように自分のやりたいことだけやっていくと、そのままメメちゃんを置いて駆け出して行った。


 エイジは何も気にした様子もなく、素直にお礼を言って手を振っている。


 メメちゃんは『マジかよアイツ……!?』と目を見開いて口を半開きにさせていた。


「い、行かなくて、良いのか?」


 ニノマエが尋ねると、メメちゃんは『ハッ!?』とした表情でニノマエに視線を返す。

 数秒の間を開けて、自称マイケルが去っていった方角へ『ギリギリギリ』と機械仕掛けの首をゆっくりと戻す。


「もおおおおおおおお!!!!!」


 牛になったパンク少女は、両手両足をバタつかせながら喧しい馬鹿野郎を追いかけて走るのであった。



「なんだか、凄い人だったね。おねーさん」


 エイジのその言葉に、ニノマエはただゆっくりと頷くしかできなかった。


 思えば、一見頼りなさそうで、“灰色”の少女を連れているだけの、『ちょっとおかしなだけ』の少年くらい、実は大したことないのかもしれない。


 ニノマエは“相棒になったのがこの少年でまだよかった。”

 “本当に、あの馬鹿野郎じゃなくてよかった”と、心底感じていた。


「あー……とりあえず、人の多い所にでも向かう?

 そういう条件だったし」


「ああ……そうだな。そうしよう」


「あっ……!」


「どうした……!?」


 ようやく“生産的な”話が出来た所で、エイジが何かに気が付いたように声をあげた。

 ニノマエは『仕事』のことでなにかあったのかと急いで少年を見る。


 少年は虚空を見つめながらニノマエにを教えた。


「おねーさん……端末見て……。

 マイケルのアドレス……、本名、記載されてる……」


「えっ……?あっ……!」


 ニノマエは手に握りっぱなしにしていた端末を確認する。

 そこには、“自称マイケル”こと“馬鹿野郎”こと、『志邑しむらディーノ』のアドレスが表示されていた。

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