28. あるべき形

 先輩細工職人同士の話し合いの結果、ロトは店舗部分の開梱作業、バルトランは工房の開梱作業と整理、花々はロトの作業の補助を担当することになった。居住部分の開梱や整理、店頭のディスプレイについては、後でロトが自分で行うとのことだった。

 ロトは取り留めもない話をしながら、花々を店舗部分へと案内した。

 店内は引っ越し業者によって既に商品を展示する為の大型什器や照明類が配置された状態で、壁沿いには業者のロゴマークが印刷された段ボール箱が山のように積まれていた。その様子は、何処か殺風景で物悲しい。

 不躾にぽかんとして辺りを見回す花々に、「これからちゃんとしたお店になっていくんだよ」とロトは苦笑いで言った。続いて、「まずは簡単な作業から」と指示を出す。

 花々はロトに言われた通りに商品の入っている箱を開き、什器の上に載せられた容器の中に置いていった。

 彼の作品は、骸骨や悪魔がモチーフとなった何とも毒々しい造形物であった。明るい印象の彼には似つかわしくない心の闇を感じさせるが、少し世間とずれた様な所がある意味彼らしいとも思えた。

 こうして暫くロトの作品を見続けている内に、花々はこれらのアクセサリーに既視感のようなものを感じ始めた。

(あれ? このアクセサリー、何処かで見覚えが……)

 するとその時、背後からロトの声がした。

「どう? 僕の作ったアクセ」

「時代遅れ」

 花々が答える前に、偶々通りかかったバルトランが冷たく答えた。

「先輩には聞いてないでしょ!? ねえねえ、どう思う?」

「……骨ですね」

「ぷっ」

 答えあぐねた花々の口から漏れた言葉に、バルトランは思わず噴き出してしまった。

「ひど~」

 ロトは大袈裟に肩を落として見せた。

「でも、今の子はそうなのかなあ。今の時期なら、新人の花々さんはまだ細工職人の製作スキルは持ってないよね。将来どういう物を作りたいとかあるの?」

「え?」

「作業の邪魔をするな。そして、お前も動け」

「だってえ、気になるじゃないですか~」

 花々を置き去りにして二人が言い争う中、彼女はロトの問いを頭の中で反芻する。

(「何を作りたいか」……そんなの、今迄考えたことあったかな?)

 否、ある。三次転職で悩んでいた頃に同じようなことを言われて、漠然と悩んだ記憶はある。そして、流されるように細工職人の道を選んだ。

 だが、今度はどんなアクセサリーを作りたいか、という問題が浮上してきたらしい。つまりは専門分野が絞られる四次転職以降をどうするか、と言う問題が。

(そう言えば私、三次職のままでこれ以上転職せず、委託販売なり何なりで生活していこうとしてたんだっけ。何か、ほぼ毎日クエストばっかりで忘れてた。ずっと、このままで行く様な気がしてたんだ)

 改めて、ロトとバルトランを見る。ロトは四次職の「彫金士」、バルトランは五次職の「宝石加工士」だと言っていた。

(草薙さんもロトさんと同じ四次職の「彫金士」、前に会ったアルトさんは六次職の「宝石鑑定士」、ワードワイスさんも六次職の「装飾品鑑定士」)

 今迄花々が出会った細工職人の中に、三次職が一人もいないのだ。

 だが統計上、冒険者の過半数は生涯を三次職で終えている筈だ。花々が三次職のままでも別段可笑しなことはない。出会う先輩細工職人が皆四次職以降なのも、唯の偶然に違いないのだ。

 しかし――。

(四次職を目指さないこと自体は、可笑しなことなのだろうか?)

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