27. 依頼主登場!
合流場所から十数分の距離にある今日の仕事現場に到着した時、バルトランは申し訳なさそうに謝った。
先程迄の自身の冷ややかな態度についてではない。彼の知人というクエストの依頼主が行うであろう言動に関してである。
「とにかく騒がしく、馴れ馴れしい男なのです。貴女を不快な気分にしてしまうかもしれない」
「はあ……」
少し後ろに下がっているよう花々に指示し、バルトランは扉の横にあるチャイムを鳴らした。
ばたん、と大きな音を立てて飛び出してきたのは、その装いや話し方から軟派な印象を受ける青年であった。おそらく依頼主であろうが、想像していた以上に若い。こんな若さで自宅商店を持つに至ったことに、花々は驚きを禁じ得なかった。
青年は、バルトランのしかめっ面を見るなり大声で叫んだ。
「ああ、先輩っ!?」
「数日振りだな、ロト・マイヤー。手伝いに来てやったぞ」
バルトランは騒々しい後輩を押し返すように中へ入り、花々にも目線で店内へ入るよう促した。そして周囲からの好奇の目を避けるように、彼は扉を閉めた。
「だったら何で、この間お願いした時に断ったんですか? わざわざ、クエスト受けて来なくても……」
「馬鹿者め。そこで承諾したら、お前のことだ。こちらの好意に甘えて――付け上がって散々扱き使った挙句、報酬を寄越さないどころか、礼の一つも言わないだろう」
「そんなことないですよお!」
(ああ、「知り合いだからこそ」ってそういう……)
花々は漸く得心した。この店主が真実バルトランの言うような人物であるかは定かではないが、確かにそういうことをする人間もいるであろう。例えば花々とか。
バルトランのようなお堅いタイプは、そういったことを絶対に許さなそうだ。
「それよりも、もう一人のクエスト受注者を紹介するぞ。今年、細工職人になった花々さんだ。ちゃんと挨拶しろよ」
「今日は宜しくお願いします。彫金士のロト・マイヤーと言います」
「宜しくお願いします」
唐突に紹介されて焦ったが、花々はぺこりとお辞儀をして答えた。
「今年唯一のルーキーか~。一人しかいなかったって聞いた時は『細工職人業界大丈夫か?』って真剣に思っちゃったけどね、ホント。でも、うちの業界に来てくれて有難う。大事にするからねえ」
「おい、鬱陶しく絡んでないで早く指示しろ。俺はちゃっちゃと仕事を終わらせて、ちゃっちゃと帰りたいんだよ」
「ひっど……! 鬱陶しくなんてないですよお。……ないよね?」
「あ、う……」
(本当にうざい!!)
捲し立てるようなその口調に、本能的に拒否感を覚える。付いていけない。
(駄目だ。この人、苦手なタイプかもしれない。クエスト破棄して帰りたい)
そんな花々の心中を悟ったのか、バルトランは深々と溜息を吐いた。
「花々さん、こいつはこういう性格なのでね。耐え切れなくなったら言って下さい。私が間に入りますから」
「酷いっ! 本当に酷いよ、先輩!」
バルトランの言葉に花々は苦笑いで答えた。
(鬱陶しいには違いないけど、それ、思っても言えないからね)
ともあれ三人は雑談を終えた後、漸く作業に取り掛かったのである。
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