26. 先輩職人

 最終的に、今回のクエストは受注者二名と依頼主との共同作業となることが決まった。

 花々は、現場に向かう前に待ち合わせ場所でもう一人のクエスト受注者と合流するよう、草薙から指示を受ける。

 今年の冒険者学校卒業生の中で細工職人に転職したのは花々一人ということなので、相手は――職業変更組やサブ職組の新人であったとしても――間違いなく先輩冒険者となる。自分は決断を早まったのかもしれない。そう思うと、緊張と後悔で徐々に足取りが重くなった。

 とは言っても、歩き続けていれば何時かは目的地に到着するものである。

「あ……」

 黒髪の青年の姿が見える。クエストの相棒は彼女より先にやって来て、待ちぼうけを食らっていたらしい。

 青年は花々の漏らした小さな声を聞き取って、徐に面を上げた。

「会うのは二度目になりますね。マリカロンドと同じギルドのバルトランです」

「マリカ……ああ! お久しぶりです」

 初対面と思い込んでいた相手は、花々が細工職人協会を初めて訪れた日に会った、元同級生のカンパニーの先輩だったようだ。確か、宝石加工士だったか。

「店へは私が案内します。付いてきて下さい」

「は、はい」

 簡単な挨拶だけ済ませると、素っ気ない様子でバルトランは歩き始める。先輩職人を待たせた花々の無礼さに、怒っているのだろうか。恐ろしくて、そこまで突っ込んで聞けない。

「今回の仕事先は私の知人の店です。自宅と工房を兼ねた小さな商店ですし、大物は既に業者が配置済みとのことなので、実際に我々が手を付ける荷物量は大したものではないと思います。彼も念の為という感じで、細工職人協会にクエスト発注を依頼したようです」

「お知り合いなのにクエストを受注したんですか? 個人的な手伝いとかじゃなく」

「知り合いだからこそですよ」

「はあ……」

 相変わらず淡々とした調子の返事である。そして、言っている意味もよく分からない。でも、やはり聞き返すのは恐ろしい。

 それから、暫く沈黙が続いた。耐えかねて、花々の方から話題を振ってみる。

「そうだ、マリカロンドさんは元気ですか?」

 こちらに背を向けたまま、バルトランは聞き返す。

「最近は会ってないのですか?」

「冒険者学校でクラスメイトだったってだけですから」

 そこで彼は歩みを止め、振り返った。心底安堵したような表情をしていた。

「なるほど、どおりで……。彼女は元気ですよ。些か元気過ぎるぐらいです」

 そうして、また前を向いて歩き始めた。

(その言葉と表情で大体事情は察しました)

 もしかしたらバルトランの冷たい態度は、花々がマリカロンドの同級生であることに起因しているのかもしれない。

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