24. 安眠ベッド・怪
翌週の休日、花々はふと「安眠ベッド」のことを思い出した。
(そう言えば、安眠ベッドはどうなったかな。もう売れちゃたかな)
気になって、再度百貨店を訪れる。タイミング良く冒険者製作品コーナーには誰もいなかった。
花々は恐る恐る安眠ベッドが展示されていた場所に向かった。しかし、あるべき商品がそこにはない。売れてしまったのだろうか。
(やっぱり、なくなってたか。まあ買えなかったけど、何となく高そうだったから別に良いかな。……ん?)
そこで花々は、件のベッドがあった場所に立札が置かれていることに気が付いた。頂点の札の部分には何やら貼り紙がある。
花々は紙に書かれた文字を呟く様に読み上げた。
「『安眠ベッド、販売中止のお知らせ』」
「お客様、安眠ベッドをお求めでいらっしゃいますか?」
「うわあっ、すみません!」
突如、背後から店員が現れた。分厚い眼鏡を掛けた押しの強そうな男だ。
花々は大いに焦り、両手を振って否定した。
「いえ、そうじゃなくて! ただちょっと気になってはいたので、どうなったのかなあと……」
「そうなんですよ。販売中止になってしまったんです。当店ではまだ買われた方はいなかったのですが、他の百貨店さんが販売した同商品でトラブルがあったそうで」
――何となく落ちが読めてしまった。残念だ。
「まさか『永遠に目覚めない』不具合、とか?」
「ご存知でしたか」
「いえ、今何となく思い付いただけですけど」
「そうでしたか。まあ、永遠に眠り続ける訳ではなく、ベッドから引き摺り降ろせば目は覚めるのですけどね。使用者の全てが同じ症状になってしまうという、完全な欠陥商品だったことが判明致しまして……。今、製作者の家具職人は取調べを受けているそうです」
(それ、販売前に誰も検証しなかったのかよ)
心の中で突っ込む。これ以上この店員と親しくなりたくないから、口には出さないが。
「そういった訳で、大変申し訳ございませんが、こちらの商品は当店でも取り扱いを中止させて頂きました。ですが当店には、『安眠ベッド』以上に快適なベッドが他にもございまして――」
「ああ、今日は大丈夫です! たまたま寄っただけですから!」
「そうですか? ですが――」
その後、店員を振り切るのに十数分程を要した。以前から主張している通り人付き合いが嫌いな花々は、心身共に疲れ果ててしまった。
そして、それ以上寄り道も買い物もせずに帰宅することにした。
自室へ戻った後、花々は非冒険者の職人が製作した特殊効果を一切持たないベッドの上に寝転がる。
(やっぱり大型百貨店とは言っても冒険者アイテムに対して無知な一般の商店で、不用意に冒険者アイテムを買うべきではないということだよなあ)
暫く物思いに耽っていた花々であったが、やがて睡魔に襲われてそのまま静かに眠りに付いた。
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