第5話 商店
23. 安眠ベッド
その日花々は所在無く、ぶらぶらと非冒険者達が経営する百貨店を訪れた。
暇な時は冒険者マーケットの露店巡りをすることが多い花々にしては珍しいことだが、特に意味はない。時々はこういう行動を取ることもある、という程度のことだ。
偶々目にした新商品コーナーには円形の白い台が置かれており、無色透明の丸い容器が所狭しと並べられていた。
容器の中に入っているのは小型スライムの群れだ。このスライムには目が付いており、こちらが視線を向けると彼等の全てと目が合ってしまった。なかなか刺激的な商品である。
容器に貼られているいるラベルを見てみると――。
「『香りのするスライム』……」
芳香剤代わりであった。
(品種改良されたモンスターか。また、動物愛護協会とか反飼育モンスター団体とかが大騒ぎしそうだなあ)
スライムの横に視線を移すと、「薬草栽培キット」や「鉱物育成キット」の札が付いた商品が置かれている。
(便利な時代になったものだなあ)
このような奇怪な商品の数々は、間違いなく冒険者が生み出した物だ。製作スキルを持たない一般人の生産者に、この手の製品を生み出す技術力はない。
周囲を見回してみれば、天井から「冒険者製作品」と書かれた看板がぶら下がっているのが視界に入った。何だか休日まで仕事をさせられているような気分になり、どっと疲労に襲われる。
とは言え折角来たので、そのまま散策がてらのウィンドーショッピングを続けた。
花々にとっては普段から馴染みのある冒険者の製作アイテムの筈だが、こうして見ると露店や公共取引所でも余り見掛けたことのないような商品もあった。中には「当社独占販売!」と記載された紙が張られていることもあった。
花々は改めて冒険者製作品コーナー内の新商品コーナーに視線を戻す。
そして、そのサイズ故に「香りのするスライム」に並ぶくらい目立っている商品を見つけた。
「『安眠ベッド』」
(「冒険者職の一つ『家具職人』が開発した『安眠効果』を持ったベッド。今なら10%割引の超特価!」……)
「家具職人」は木工職人の四次職である。彼等の製作する家具の中には、装備アイテムの様に使用時に特殊効果を発動する物があり、特殊効果を持たない一般の商品よりも高額で取引されることが多い。
この安眠ベッドも、どうやら特殊効果を持つ家具アイテムの一つのようだ。
「『安眠』、かあ……。値段は――あ、やばい。店員が来る!」
高額商品を無理矢理押し付けられては敵わない。
(一般商店はこういう所が嫌なんだよなあ。「赤花の守り石」の一件の以降、よく眠れてないから、もっとちゃんと見たかったんだけど……)
花々は忌々しそうに、やって来た店員の方を睨み付けた。しかし、睨み付けるだけではどうにもならない。
「仕方ない。露店行こ」
結局花々は「暇な時は冒険者マーケット」という、何時もの行動パターンへと戻って行くのであった。
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