21. 欲求

(服装のことは置いておくとして、自分のやりたいことを仕事に出来てるっていうのはとても幸福なことで……きっと満たされてるんだろうなあ)

 晴れがましい姿をした魔術士達に対する競争心からだろうか。それとも、実際に製作を行っている細工職人達を見て触発されたからだろうか。

 冒険者学校で習った初心者用の製作スキルで作れる程度の物でも良いから、とにかく何か物を作りたい。――その思いを一層強くして、翌日花々は素材と魔法道具を調達する為に公共取引所を訪れた。最早、我慢の限界だった。

 そこで彼女が商品一覧画面を開いて目にしたもの。それは、当分の間は視界に入れたくなかったあるアイテム名の羅列だった。

(うわ、「赤花の守り石」が大量だ。一気に攻勢を仕掛けてきてるよ)

 四頁はこのアイテムで埋まっている。しかも、それだけではない。うろ覚えだが、花々が先日件の露店で見掛けた記憶のある他のアクセサリーも山ほど並んでいた。

 このやり方、前回の新作――未だにアイテム名を確認していないが、指輪であったことは記憶している――発表の際にはなかった露骨さを感じる。

 草薙は状況証拠だけで「赤花の守り石」事件が「錬金術士の挑発」だと決め付けていたようだったが、存外ただの被害妄想ではなかったのかもしれないと花々も感じてしまった。 

(まあ、この辺の対応は協会に任せるとして。そうだなあ。どうせ何かを作るなら、製作に有効な効果の付いたアイテムが欲しいかな。いや、最近図らずも戦闘することが多くなってるから、そっち優先か。だとすると――)

 商品一覧画面を遷移させて、花々がチェックを入れた素材は以下の三つであった。


 ・「魔法使いの鏡」 品質50、無属性、150セル

 ・「守り石」 品質60、無属性、65セル

 ・「氷の妖精」 品質50、氷属性、400セル


(今持ってる製作スキルで使用可能な素材はこの辺りだが……)

 花々は最終的に、三つの中で見た目が最も好みだった「氷の妖精」を選択した。

 素材が一つ決まったことで、何を作成するかも自ずと確定する。花々は他に必要となる素材や魔法道具の商品番号をメモ用紙に書き記した。

 その後、申し込み用紙に必要事項を記入して、受付へ向かった。

「すみません。この商品番号の商品を下さい」

 その声音は緊張と期待で上擦っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る