20. 細工職人の本気
「それ嫌味ですよ、嫌味! 戦闘職は自分達だけが冒険者だと思って、常日頃から生産職を見下しているんですから。駄目じゃないですか、ちゃんと言い返さなきゃ!」
魔術士協会での出来事を花々から聞いた草薙は、声を荒らげてそう言い放った。
「いや、一応相手はお客様ですから……。でも、自分の職業に誇りを持ってるんだな、とは思いましたね」
「それは誰でもそうでしょう。花々さんは違うのですか?」
「私は誇りを持つ程、細工職人らしい仕事をまだやってないですから」
これは明確に嫌味である。草薙は眉を顰めた。
「うむむ。そう言えば、花々さんは普段から余りアクセサリー類を身に付けてませんよね。お洋服もまあ、ちょっと……」
「はは。私、物作りには興味ありますし、作品をただ眺める分には良いんですけど、自分が身に付けるとなると余り……」
「苦手ですか?」
花々は苦笑する。
「ぶっちゃけ、そうですね。それについて考えるのも面倒ですし、あんまりけば――いえ、華やかな服を身に着けても、自分に似合うとはとても思えませんし」
「まあ、確かにね」
「ぶっ!!」
安定の草薙節である。言って良いことと悪いことがあると分からないのだろうか、この女は。
「くふふ……」
唐突に草薙は気持ちの悪い笑い声を発した。嫌な予感しかしない。
「何ですか?」
「そんな花々さんに残念なお知らせがあります」
「え?」
草薙は「離席中」と書かれた札を机に置くと、カウンターの脇から表に出て来た。
そして、花々に向かって手招きをする。
「まずは私に付いて来て下さい」
「何なんですか?」
不信感を露にする花々の問いには答えず、草薙はスキップをするような足取りで廊下を進んでいった。
◇◇◇
その光景に花々は衝撃を受ける。
「――っ!?」
何処か寂れた風情のある建物に、奇怪な魔法道具と所々に傷や汚れが目立つ内装、そして浮世離れした華やかな衣装を纏った人々。
見世物小屋は斯くやあらんといった光景であるが、驚くなかれ、ここは――。
「ここは細工職人協会が敷地内に設けている工房です」
開いた口が塞がらないとはこのことだ。何という違和感。衣装だけ見れば魔術士にも引けを取らないが、周囲の環境と全く一致していない所が、やたら滑稽さを際立たせている。
何やら作業をしているようだが、細工職人協会の工房にいるということは、彼等は細工職人なのだろうか。生産職には、とても見えない。
「本気装備です」
「いやいやいやいや」
草薙がしたり顔で言い切ったその言葉を花々は頑なに否定した。
「真面目に解説すれば、装備効果狙いですよ。特に職業専用装備には各職業に有用な効果が付いていますからね。因みにご存知かとは思いますが、細工職人が装備可能な防具・衣装系アイテムは布装備と皮装備。つまり魔術士同様、裁縫職人が丹精込めて作り上げた作品達なのです!!」
「ええ……」
花々は唖然として細工職人達の方に視線を送った。
そして、思い出す。冒険者学校卒業前、進路に悩んでいたあの頃を。
(職業体験の時、誰もこんな服着てなかったよね?)
花々の胸中の声だが、草薙が聞いていたならこう答えただろう。「それはイメージ戦略だ」と。
「花々さん」
黒々しいオーラを纏った草薙が、花々の背後に立っていた。
「覚悟しておいて下さいね」
彼女の内心は推して知るべし、である。
(ぎゃあああああ―――――っ!!)
細工職人になってから、よく心の中で叫ぶようになった、と花々は後で冷静になって思った。
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