13. 新レシピクエスト開始!

 それから一週間と間を置かず、草薙の予告通りに新レシピ開発に関わるクエストが発注され始めた。

「遂に来ましたよ、新レシピクエスト!」

 そう語る草薙の頬はほんのりと高潮し、声は弾んでいる。クエストカウンターの受付嬢という職務に身を置いている彼女も、細工職人系四次職――彫金士の端くれだ。「自分を新たな世界へ導いてくれる」、そんな予感に胸を躍らせているのだろう。

「ああ、やっぱり」

 片や細工職人の世界に染まりきっていない花々は、熱の籠らない相槌を返した。

 だが、新クエストのことで頭が一杯の草薙は、乗りの悪い花々の態度も然して気に掛からない様子だった。

「それでですね、この前の回収クエストのような強制力はないのですが、できれば花々さんにはこちら関連のクエストを優先的に受けて頂きたいと思いまして、幾つかリストアップしておきました」

 草薙はクエストリストを花々に手渡し、机の上にクエスト詳細を纏めたファイルを広げた。

 花々はファイルをぺらぺらと捲って唸った。

「へえ~、なんかそれっぽい。報酬もいつもより高いですね。あ、『至急』マーク」

「そちらの配達クエストはちょっと遠出になってしまいますので、申告して頂ければ後日交通費が支払われます。それまで、立て替えになってしまいますが……」

 備考欄に同様の記載を見付けて、花々は少し考え込んだ。

「思ったんですけど、公共取引所で使ってるような転送装置って導入できないんですか? そしたら、配達クエストを出す必要がなくなるような……」

「あれは取引所が一番最初に開発・導入し、次に冒険者銀行が使用し始めたのですけど、彼等が使っているお陰で『保安上の問題』が発生してしまいましてですね」

「『保安』? なんか、物騒な話になってきましたね」

「装置の構造が分かれば、大袈裟かもしれませんけど、最悪泥棒し放題の状態になってしまいますから。そして、最終的に冒険者組合や政府が、転送装置に関する情報公開と使用を制限する決定を下してしまいました。機密扱いになってしまったのですね。更に、他の組織や個人が類似する装置や魔法を開発しても使用許可を出さない、と。……ですが、帰還拠点だけは唯一例外で、人命に関わることなので使用許可が下りています」

「何だか勿体ないですね」

「まあ、仕方がありません。手間は掛かりますが、安全の為です。……それで、どうされます?」

 少し俯き、花々は考える素振りを見せたが、ややあって顔を上げ、こう答えた。

「これにします。行ったことのない場所だし、交通費を出してもらえるなら、行ってみたいです」

 まるで、旅行気分である。草薙は頼りない彼女に釘を刺した。

「一応断っておきますが、至急ですからね。最短ルート、最速でお願いしますよ」

「分かってます!」

 花々は脹れっ面で言い返した。

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