第四輪 花火と夏祭り

「ねえ、あれ買って!」


「あの景品、取ってあげるからね」


 夏祭りの会場で大勢のカップルが騒がしく、夏を楽しんでいる。


 私も君とその中の一組になりたいなんて思いながら、隣にいる君の横顔と浴衣姿に見とれている。提灯に照らされた横顔が光っているのが綺麗だ。


「ねえ、私たちも何か買おうよ」


 隣にいる君が呟いた。確かに、花火が上がるまで暇だし、何か買わないとね。


「そうだね。暑いし、かき氷でも食べようか」


 私たちは、かき氷を買った。私はレモン味で、君はブルーハワイ味だ。夏の暑さに耐えられないかき氷は少しずつ溶けていく。それを私たちは少しずつ食べていく。


「見て、舌が青くなったよ!」


 君は舌を出す。ついドキドキしてしまった。遠くで聞こえる夏祭りの太鼓の音と同じぐらい私の鼓動が、君に聞こえてんじゃないかなと思い始めた。


「次は綿菓子、食べよ!」


 君が綿菓子の屋台へ駆けていく。その背中を追いかける。二つ、買った。せっかくなら一つを二人で分け合えたら良かったのに……。


「ねえ、頬に綿菓子ついてるよ」


 私は君の頬に手を伸ばして取ってあげる。やった、合法的に頬を触れた。


「取ってくれてありがと」


 綿菓子みたいにふわふわした表情で、君は笑っていた。


「あ、そろそろ花火上がるんじゃない?」


 私たちは花火が見えやすいところまで向かう。


「もう上がるかな?」


 スマホの時計を確認する……あと1分。


「あ!上がったよ!」


 花火が空高く上がっていく。花火って儚く消える煙まで美しいよね。


「綺麗だね~」


 君が私に言ってくる。確かにね、だけど君のが綺麗だよ……なんて恥ずかしくて口が裂けても言えない。


「そろそろ終わっちゃうね」


 君がそっと呟く。もう終わっちゃうのか。だったらもう勇気を出して、君に伝えないと、この思いを!


「あのさ、実は私……」


 君がこちらを見てくる。思わず台詞が止まってしまった。


「どうしたの?」


 君に問われる。そんな可愛い表情で見られたら、余計に好きになっちゃうよ。


「君の事が……好きなの」


 私は恥ずかしながらも、どうにか台詞を言い終わる。とても驚いた表情に君はなる。そりゃそうだよね、急に私がこんなこと言っても驚くだけだよね。


「――」


 君が私に何か言う。君の返事は、花火の音に書き消された。なんて言ったのか問う。


「なんて言ったの?」


 私は君に聞いてみる。ただ私の思いを伝えられただけでいい。でもその返事を答えてほしい。


「……ひ・み・つ」


 ニヤりと君は笑っている。その時、花火が終わった。そんな夏が終わった。

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「百合色の花束」~百合ショートショート集~ 🪻夕凪百合🪻 @kuroyuri0519

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