第二輪 夕暮れの学校にて

「ねえねえ、紗菜さな!私、彼氏が出来たんだ~!」


 放課後、二人きりの教室で、私に向かって嬉しそうにその言葉を言っている優美ゆうみの声だけが聞こえる。


 理解が追い付かなかった。


「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」


 私はそれだけ言ってトイレに駆け込む。耐えられない……私は嘔吐する。きっとストレスのせいで吐いてしまったんだ。


 なんで優美に彼氏が出来ちゃったの?優美には私がいれば良いと思ったのに……。私には優美しかいないのに……。


 ――トントン。


 誰かがトイレのドアをノックしている。誰がノックしているのかは、もう分かっている。


 ――ドンドン!


 さっきよりも強くドアをノックされている。誰がノックしているのか分かるからこそドアを開ける勇気がない。


 ――ドンドン!!


 さっきよりもさらに強い力で、ノックされているのは分かる。でも……。私とドアノブの間に言葉では表せないほどの距離があるような気がした。


「ねぇ!私……優美だよ!開けてよ……」


 名乗らなくても優美なのは分かってるよ……だって優美の微かな息づかいも良い香りも全部、知っているし……愛しているから!


「紗菜、出てきてよ。ねぇ……」


 優美が少しすすり泣いている。泣きたいのは、私の方だよ……と思う。優美を泣かせた罪悪感に襲われてる。私はドアノブに手を置く。私がドアを開けた瞬間に……する。今、心の中で考えた作戦を思い浮かべてニヤニヤする。


 ドアを開ける。少し泣き顔の優美がこちらを見て微笑んでいるのが見えた。優美の柔らかい頬を掴む。そして私は優美の唇にキスをする。


 逃げられないように優美を壁の方に追い込み壁ドンする。そのまま、キスを続ける。優美の全てを味わえるように……。


「紗菜!やめて……」


 そんな可愛い顔されたら、余計にキスしたくなっちゃうよ。本当に可愛いね……。


 優美がやっと私の愛を認めてくれたのか私に抱きついてきた。キスを止めてから優美の頭を優しく撫でる。


 優美が猫のように懐いてくれた。決して私が操ったのではない。自分の意思でこうなってくれたのだ。私は嬉しすぎて、少し強く抱き締める。


「ねぇ、私からキスしていい?」


 優美がそんなことを呟いたことに驚く。私は勿論、了承する。優美が背伸びをしてキスをしてくる。私の方が、かなり身長が高いので、背伸びをさせなくてはならない……ごめんね。


「……愛してる」


 優美が恥ずかしそうに言ってきたので、包み込むように抱き締めてあげる。


「紗菜、ごめんね。私は、あんな男より優美が好き。本当に大好き!」


 そう言ってくれると嬉しい。でも……そいつと、どこまでしたの?


「手も繋いでないから安心して。私の全部、優美のものにしていいよ」


 チャイムが鳴る。もう最終下校時刻か。私たちは永遠の愛を誓ってから家に帰る。

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