「百合色の花束」~百合ショートショート集~
夕凪 百合
第一輪 恋に溺れる
人は恋を様々なものに比喩する。恋は盲目とか恋に溺れるとか。私は恋に溺れるという比喩表現が好きだ。
というのも私自身、水泳が特に苦手で水泳の授業がある時は毎回休む。もし休めなかった時は、トイレに籠る。
それぐらい水泳が苦手なのだ。クロールや平泳ぎなんてできるはずもなく、水に顔を浸けることすら怖く、水に入ったら簡単に溺れてしまう。決して、誰かに海に沈められたとか、水を使って虐められたとか、そういうわけではない。
私はいつものように水泳の授業で見学していた。真夏のプールサイドって、なんでこんなに暑いんだろう。これがフライパンで焼かれる食材の気持ちなのかな。なんて考えて過ごしている。
「水瀬さん~」
後ろから、名前を呼ばれる。私って、こんなにも水が苦手なのに名前は
そんなことは置いといて、話しかけてきたのは、
「水瀬さんって、なんでプール入らないの?夏だし、気持ちいいよ!」
そんなこと言っている、夏川さんも見学しているけど。その台詞ってプール入っている人が見学者に対して言うことじゃない?
「話そうよ……水瀬さん!」
急に夏川さんが、横から抱きついてくる。ザ・陽キャの距離感!これだから陽キャは……。
「さっきも聞いたけど水瀬さんって、なんでプール入らないの?」
私は、理由を一通り話す。
「そうなんだ。でもプールなんて入らなくてもいいもんね。私はサボってるだけなんだけど……」
笑いながら夏川さんは言う。夏川さんの無邪気に笑っている顔が可愛いなんて思ってしまった。
「そもそも誰にだって苦手なことなんてあるし、何回か挑戦したならそれだけで偉いよ。私なんて逃げてばっかりだからね」
微笑みながら言ってる言葉は、私の心に響いた。この言葉を聞いた時に、夏川さんへの思いがクソ陽キャから恋に変わった。
「偉い偉い、良い子だね~よしよし」
私のことを子供のように扱っているように感じるが、その優しさが声から伝わってきて幸せを感じる。思わず涙が出てしまうほどだ。私は、夏川さんの心がある場所に飛び込む。心臓の音が聞こえる。
「水瀬さん、疲れてるんでしょ。仕方ないよ。いつも水瀬さんが頑張ってるの私は見てるから……」
よくよく考えれば、これはストーカーだということに気づくはずだが、この時の私は、ただ認めてもらえたことが嬉しくて、泣きながら夏川さんの心に飛び込んでいた。
「あなたを好きになってもいい?」
私は……私たちは、そんな思いを言葉として伝えずに、抱きしめ合うことによって心から伝えていた。
――真夏のプールサイドで、抱きしめ合う少女が二人、恋に溺れていた。
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