サイバネ問答、内見の例えを添えて
猫煮
ブッダは寝ているのです
サイバネ・ブッダがワイアードボダイジュの下でインナーユニバースとの対話を行っていると、クローンド・ビク(同質に形成された、コモン・ブッダ・フォロワー)が近づいてきて、問答を持ちかけた。
「先生、私は功徳を積んで来ましたが、死ぬということについて解らないでいます。死を超越するとはどういうことなのでしょうか」
サイバネ・ブッダはプラーナを整えて目を開けると、クローンド・ビクを見据えて言った。
「ビク、そのように何かを欲し、叶えられないということに苛立っていることが最も死への理解を拒んでいるのだ。あなたは死に付いて知ろうとするのに、どうして死を遠ざけようとするのか」
クローンド・ビクがその言葉に聞き入っていると、西からサイバネ・プンナが歩いてきて言った。
「ビクよ、あなたは死について悩んでいるようだが、そのようなことは召使いに賃金が与えられるように、私達に与えられるものだから、それを待つのが最も良いだろう」
「しかし、尊者(ハイクラス・ブッダ・フォロワー)。私はいつか訪れると言う死にあたって、迷乱したくないのです」
「ビク、それでは、もしあなたが三つの宮殿を備えた家と、野に掘られた穴のどちらかに住めと言われたらどちらに住むのか」
問われたクローンド・ビクはしばらく考えたが、サイバネ・プンナに答えた。
「すべて生きたものは必ず滅するとの教えに従えば、宮殿に住むことも穴に住むことも同じです」
「では、バイオ・ファイバーで編まれた屋根の下と、野ざらしの穴ではどうだ」
「宮殿の屋根がバイオ・ファイバー・クロスに変わっても、同じことです」
「では、そこにあなたの年老いた母を住まわせるとしたらどうだ」
クローンド・ビクは驚いたが、しばらく迷うと答えた。
「私は宮殿に住まわせるでしょう」
「それはなぜか」
「私が功徳を積むのと同じように、母は母自身の功徳を自ずから積まなくてはならないからです」
「では、宮殿がネオ・エベレストの頂きにあり、穴がブッダのお側に掘られているとしたらどうだ」
それを聞いたクローンド・ビクは驚いて言った。
「そんな場所とは知らなかった」
「あなたが言う通りならば、山頂の宮殿とブッダのお側のどちらにいても同じことではないのか」
「しかし、そのような過酷な環境にいては、老いた身がもたずに功徳の積みようがありません。生に悩むことすらなく死んでしまうでしょう」
「あなたの悩んでいることはつまり、そういうことである。諸行無常の題目にすがるあまり、それ以外のことを忘れてしまったのだ。住む処はその建物、すなわち住宅のみによって価値が定まるものではない」
「では、どのようにしたら良いのでしょうか」
サイバネ・プンナはその問いに少し考えたが、やがて答えた。
「題目を住宅とするならば、修行はそれを見定めること、つまり内見であり、悟りを開くことは、その住居に住むことである。」
そう言うと、サイバネ・プンナはサイバネ・ブッダの座るワイアードボダイジュの影を指した。
「すなわち、住居を定めるにあたり住宅の中身と同じく周りの環境を考えるのと同じ様に、悟りを開くにあたり釈迦(ブッダズ・ネーム)の教えそれぞれを考えるのと同じくあなた達それぞれが何を悩むのかについて考えなさい。そうすれば、住みよい家を見つけるのと同じ様に悟ることができるだろう」
「それでは、今と同じことではないでしょうか」
「あなたは死について受け入れないことと同じ様に、釈迦の教えについて受け入れないのか」
そこまで言われたクローンド・ビクは、きまり悪げに黙り込んだ。
それを黙って見ていたサイバネ・ブッダはサイバネ・プンナに問いかけた。
「プンナよ、もし私が今のあなたの言葉を間違っていると言ったらどうするのか」
サイバネ・プンナは即答した。
「それならば喜ばしいことです。私は解脱(ピュア・マインドを得ること)にまた一歩近付いたことになるのですから」
「眼の前の男に嘘を教えたことについては、どう思うのか」
「私の言葉がどのような形であれ、真に悟りを得るための過程を辿る者の一人でも多くに関わることができるならば、それもまた喜ばしいことです」
続けて、サイバネ・ブッダはクローンド・ビクに問いかけた。
「もし今の話を私が否定したならば、あなたはどうするのか」
クローンド・ビクは少し考えたが、答えた。
「何がどう間違っていたのか、教えを賜りたく存じます」
その二人の答えにサイバネ・ブッダは満足なさると、インナー・ユニバースとの対話に戻られた。
それを見ていたサイバネ・プンナはクローンド・ビクに問いかけた。
「今、あなたは死についてどう思っているか」
「私は死を恐ろしいと思います。しかし、何が恐ろしいかということが解らないので、その理由について考えようと思います」
このやりとりは、ワイアードボダイジュのサイコ・エレクトロマグネティック・ネットワークで多くのブッダ・フォロワーに共有された。
その結果、苦行に励み命を落とすブッダ・フォロワーが大幅に増えた。そのことにサイバネ・ブッダは嘆息なさったという。
サイバネ問答、内見の例えを添えて 猫煮 @neko_soup1732
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