社畜、気付く
扉を開け、少し歩き続けると…破壊し尽くされ、めちゃくちゃになった新宿が姿を現した。
ここに入る前と違ったことと言えば、九条ギルド員らしき人物達がモンスターの死骸を片付けていることぐらいだった。
せっせと働くギルド員を見ていると、目の前に物体が現れ…地面に落ち、カランッと鉄のような音を鳴らした。
おそらく完全攻略したことによって与えられた報酬だろう。
俺は地面に落ちた報酬を拾い上げ、確認する。……大体は予想がついていたが、やはりまた短剣だった。
また短剣か……これで何本目だ?流石にこれ以上は要らないんだけど…まぁ貰えるものは貰っておくか。
報酬としてもらった短剣の名は『蜈蚣神』。刀身には層主の蜈蚣に生えていた脚のように鋭い歯が付いていた。後片付けをしてくれているギルド員達には被害を出さないように力をセーブし、試しに振るう。
「ッ!……なるほどね。こいつは使えそうだ」
鞭のようにしなった短剣を見て思わず驚きの声が出る。
鞭のように見えたのは、刃の部分が等間隔に分かれたからだ。
内部には一本のワイヤーが入っており、そのワイヤーによって繋がれているのが分かる。刀身が伸びてしまったらそれは短剣なのかどうなのか分からないが、まぁ良しとしておこう。
報酬に満足した俺はアイテムボックスへ蜈蚣神を仕舞うと、視界の端の奥から見覚えのある黒髪を揺らしながら誰かが走ってきていた。
その人物は遠くに居るのにも関わらず大声で挨拶をしてくる。
「高橋さ〜ん!お久しぶりで〜す!」
「どうも栗宮さん。お久しぶりです」
走ってきていた人物の正体は…栗宮さんだった。彼女と最後に会ったのは数日前なので久しぶりだという訳でもないが…ここは彼女に合わせておく。
「それにしても高橋さんやりましたね!ダンジョンブレイクをソロで制圧!歴史に載るような偉業ですよ!」
「ははは…ありがとうございます。ところで、栗宮さんは何故ここに?」
「いやー霧世さんにダンジョンの調査とついでに高橋さんの迎えをと言われまして…でもダンジョンはもう完全攻略したみたいですし、高橋さんの迎えだけで良かったみたいですね〜」
背後にあるダンジョンを見つめながらここへ来た理由を話す栗宮さん。
確かにここはもう完全攻略したため、後数分で崩壊が始まるだろう。
……そういえば、何で城崖ダンジョンは崩壊していないのだろうか…?あそこは過去に攻略されているし、俺も攻略したはずなのに、一体何故?
今になって、城崖ダンジョンの異常にも気付く。神隠ダンジョンも同様に崩壊が始まらないが、訳が分からない。ダンジョンは完全攻略すれば崩壊するという世界の仕組みが狂ってきているように感じる。
数分間全く動かずに、深く考えている俺を不思議に思ったのか、栗宮さんが顔を覗き込んでくる。
「……どうしたんですか高橋さん?何か考え事でも?」
「いえ、少し気がかりな事があるまして……ダンジョンって完全攻略したら崩壊するじゃないですか…でも城崖ダンジョンは崩壊が始まっていません。それについて少し考えてました」
俺が考えていた理由を聞いた栗宮さんは目を瞬かせ、焦ったような表情になる。
「た、確かにそうですね!この前の配信で高橋さんが層主倒してたのに崩壊が始まってないです!」
どうやら彼女も今になって気付いたようだ。彼女ほどの探索者が一体何故疑問に思わなかったんだろうか?それに霧世さんも何も言ってこないし……
またもや色々なことを考えていると、途端に地面が揺れだした。しかもかなり強い、ダンジョンブレイクが起こる時以上だ。
「なななななんですかぁ?!何が起きてるんですか?!」
焦りまくる栗宮さんを他所に、俺は地震が収まるのを待つ。
霧世さんが完全に意気消沈すると同時に、次第に揺れは収まり始めた。ここで電話が掛かってきた。相手は霧世さんから、すぐさま電話に出る。
『高橋。今の地震お前も分かったな?』
「はい。原因は分かってますか?」
『あぁ…今回の地震は、ダンジョンによるものだ。しかもダンジョンブレイクのものでは無い』
……ダンジョンによるもの?しかも予想通りダンジョンブレイクによるものでは無いと…だったら何だ?新しいダンジョンでも出来たのか?
「だったら原因は……」
『進化だ』
「……はい?」
霧世さんからの回答に、思わず間抜けな声を出す。
「し、進化…?ダンジョンが?…どうゆう意味ですか?」
『そうだな…簡潔に言うと、ダンジョンの階層が最深層から一層増えた。ふむ…『冥層』とでも言おうか。東京、東京周辺にあるダンジョンに冥層が出来た』
冥層……最深層よりも更に深い階層か。…待て…もしかして…ダンジョンが崩壊しなかったのは…いやでもそれだったら普通最深層主を倒した時に気付くはず。でも気付け無かったという事は…
「……まだ進化する途中だったってことか」
『……?高橋、何がだ?何が途中だったんだ?』
「霧世さん。俺が城崖ダンジョンを完全攻略したのに崩壊してないの知ってましたか?それに過去の攻略時も崩壊しれないことを……」
『ッ!確かにそうだ!何故今の今まで気付けていなかったんだ?』
どうやら霧世さんも崩壊が始まらないことに特に何も気付いていなかったらしい。
とここで、霧世さんが有り得ないことを言った。
『まさか……第三者からの…』
「いやいや流石にそれは……」
しかし否定は出来ない。今まで崩壊が始まらないことに気付けていなかったのだ。ダンジョンのことに関しては遥かに詳しい逸脱者やS級探索者でさえ……
『とにかくこちらでまた調査してみる。後でな』
「分かりました。それでは」
通話を終了し、ほったらかしにしていたコメント欄を見る。
《冥層ってなんだよ…最深層が一番じゃないのかよ…》
《っていうかなんで俺たちは崩壊が始まらないことに気付いていなかったんだ…?》
《まずいまづいまずい》
《何で東京だけ…》
コメント欄は色々なコメントが行き交っていた。確認した俺は未だに消えていない背後にあるダンジョンを見る。おそらくこのダンジョンも進化し、新しく冥層が追加されただろう。
今までのダンジョン歴史には無い異常事態。
ダンジョンと言う世界の仕組みは───
───狂い始めていた。
---------
えちょまです
話進んだと思いません?!
まぁ進めるのが遅かっただけなんですけどね!
それじゃ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます