社畜、雑談配信をする 後編
《やっぱ怪物だったんだなぁ高橋》
《DSCつったら日本のダンジョン探索最先端を突っ走ってるエリート部隊じゃねぇか》
《一条社長も大絶賛やんけ》
《そらDSCにも選出されるわ》
「そうなんですよぉ〜!ゆーくんたらほんとにかっこよくて!他にも───」
既に10万人が視聴し、大盛りあがりを見せるコメント欄、俺の横で楽しそうに話している新沙、虚ろな目で配信画面を見ている俺……どうしてこうなったんだっけ…
時は十分前に遡り、新沙が衝撃の発言をした時に遡る。
新沙の発言を拒否しようとすると、壁に掛けてあった8時を指している時計がふと視界に入った。8時と言えば学生は部活が終わり自分だけの時間を満喫し、定時が早めでホワイト企業に就職している人ならもう帰って来ている時間帯…しかも今日は金曜日、最も人がDTubeを見る時間帯だと言っても過言では無いのだ。
流石にこのビックチャンスを逃す訳にもいかないので、新沙を帰さずにそのまま配信を開始してしまったということだ。
新沙を隣に座らせながら配信を開始した時は何かブーイングされるかもとヒヤヒヤしていたが、新沙が状況を上手くリスナーに説明し、まとめてくれたのだ。
その時は神!と感謝していたが、帰ってくれればこんな状況にはならなかったので秒で冷めた…まあ今更そんなこと思っても仕方が無いので配信に専念するとしよう……
両頬を叩き、真剣に配信に向き合う…が、そこでひとつのコメントが目に入る。
《おいこれ高橋の配信だろなんか喋れよ》
「『おいこれ高橋の配信だろなんか喋れよ』……このコメントに俺もごもっともでございます」
「ゆーくんの代わりに私が喋るね!」
「いやこれ俺の配信だからな?」
《草》
《草》
《乗っ取ろうとしてて草》
《最早このチャンネルが誰のなのか分からなくなってきた》
《そりゃ一条社長のよ》
「いや俺のですからね?」
リスナー達が新沙のチャンネルだとコメント欄を埋め尽くす。
いや待ってマジでこのままだと新沙にアカウントを乗っ取られてしまう……話題を変えて俺のチャンネルだと言うことを証明しなければ!
「えー…それじゃあ軽く自己紹介でもしていきましょうかね…まず名前なんですが、高橋優希って言います。バチバチ本名です。次に年齢ですが、22ですね。」
俺が年齢を言うと、コメント欄がざわつき始める。
《おい待てこいつ今何歳って言った?》
《22…だな》
《その歳で最深層攻略……ゑ?》
《自分30の探索者だけど泣きたくなってきた》
《いい歳したおっさんが泣くな》
《辛辣すぎんか?慰めたれや》
「まぁ
《知ってた》
《ファアアアアアアwwwwww》
《知ってた》
《こいつがジョブ言った日におやすみした同志は居るかい?》
《ノ》
《ノ》
リスナーみんなは既に俺のジョブを知っていたようだが、初耳のリスナー達も多かったようで年齢を公開した時より一層ざわついた。
……ちょくちょく見かける《ノ》は何なのだろうか?それにあの日におやすみした同志とは一体…?
ま、まぁ気にするほどのことでは無いし…放っておこう。
「さて、俺の自己紹介も終わったことですし…俺の狗柳ギルド時代の話でもしましょうかね…」
《おい話題が無いからって無理にトラウマ思い出さなくていいんだぞ》
《お前が楽しく一条社長と話してるだけでもワイらはおもろいで》
「あいや別にトラウマとかじゃないんで…」
《俺らの気遣いを返せよ》
《お前シバくぞ》
《↑シバけるもんならシバいてみろよ。死ぬぞ》
《一条社長がとんでもない気を放ってるのは気の所為?》
横に居る新沙からとんでもない気を感じるのは置いといて…別に狗柳ギルド時代はトラウマじゃない。普通にもっとヤバい
そんなことを思いながら、時計の方に目を向け時間を確認する。
時計の針が指しているのは8時30分…配信終了予定は10時なので、俺の社畜時代を話すのには十分な時間だ。
「さてと…それじゃあ始めようか。俺の社畜時代のお話をね……フフフ」
《目が笑ってないぞ目が》
《どんな社畜時代を過ごしてきたんや…》
《あれ程までに強くなれるとかアホみたいな社畜時代過ごしてきたんやろな》
《wktk…》
《これはwktkしていいんか…?》
「どうぞどうぞwktk?しといてください」
wktkと言う意味は分からないが、何か許可を求めていたので許可する。
《ほなwktkしとくわ》
《wktkwktk》
《こいつらエグすぎるw…wktk》
《お前もかい》
《こんなのwktkせずにはいられんやろ》
《コーラとポテチ用意した》
《映画鑑賞ちゃうんやぞ…》
リスナー達も準備万端のようだし…さぁ、始めようか。君たち全員震撼させるような長い長い社畜時代のお話を…!
*****
俺が社畜時代のお話を話し続け、終わりに近付いた頃…コメント欄は固まっていた。
最初の方はえぐぅとか色々あったが、話を進めていく内にコメントの数はどんどん減っていった。
見飽きたのかなと思ったが視聴者の数が増えていく一方だったので違った。
「───と言った感じで今になってる訳です」
ここでやっとコメント欄が動き出す。その中には俺のことを慈しむようなコメントもあった。
《………苦労したんやな》
《荷物持ちがここまで強くなったのも納得できるね》
《高橋…お前今日からワイらの息子や…》
「いや俺の両親は唯一無二なんで遠慮しときます」
《あっええ子や》
《ごめん謝るわ》
《もうそろそろ10時やけど終わるんか?》
《配信終了10時書いてたもんな》
《ほんならもう終わりか》
「あっほんとだ。もう10時……」
コメント欄にちょくちょく書かれている10時と言うコメントを見て、もうそろそろ終わりだと気付く。
「それじゃあ今日の配信はここまでにしましょうかね……それではまた次の配信で!おやすみ!」
《おやすみ》
《乙》
《いい夢見てくれや…》
《おやすみ》
《おやすみ》
《何か重要な人を忘れてる気がする…》
〜配信が終了しました〜
配信が終了しましたと画面に表示され、俺はソファの背もたれに寄りかかる。
「あ〜疲れたぁ!」
こんなに疲れるものなのか雑談配信って……ん?待って…最後の方に見えたコメントにもあったけど、何か重要な人物を忘れてるような…
そう思い横に目を向けると……寝息を立てながら寝ている新沙が机の下でカーペットに寝っ転がっていた。
「あー…だから途中から何も喋らなかったのか…なるほどねぇ」
日頃の社長の激務による疲労が俺の家に来たことで押し寄せたのか、起きる気配など全く感じさせない新沙を見てふっ、と吹き出す。
新沙も新沙で苦労してるんだもんな……
机を退かし、新沙を抱き抱える。
「軽…お前ちゃんと飯食ってんのか…?」
俺の筋力がバグってるからなのかは分からないが、羽のように軽い新沙に問いかける。当然眠っているので返事は返ってこない。
抱き抱えたまま寝室の扉を開け、ベットに優しく寝かせる。
気持ちの良さそうな寝息を立てながら寝ている新沙が少しイラついたので、柔らかそうな白い頬を軽く抓る。
んぅ...と小さく呻き、自身の頬を抓っている俺の手を掴みながら新沙は寝言を零した。
「ゆーくん……好き……」
いつもなら少しうざったいが、夢の中まで俺のことを想ってくれていると思うと少し嬉しくなる。
……好きって言われたら、俺もこう返すしかないよな。
「俺も好きだぞ、新沙」
相変わらず返事は返ってこない。
俺は自分で何言ってんだと思いながら寝室から立ち去ろうとする。
しかしここで俺はこの家に家族全員で住んでいたあの頃にいつも寝る前に言っていたの魔法の言葉を思い出す。
「おやすみ、新沙。いい夢を」
それだけ言って、俺は寝室から立ち去った。
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えちょまです。なぁんでラブコメみたいになってるんですかねぇ。
とりまそのことは置いといて…おやすみって魔法の言葉だと思いません?
おやすみって言っておやすみって返ってくるだけで安心出来る魔法の言葉だと俺は思ってます。
それじゃ
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