社畜、髪を切る

 九条ギルド本社からの帰り、社長室を出る時に霧世さんに言われたことを思い出す。


『その邪魔で長くてウザったらしい前髪を切ってこい。配信には清潔感も必要だ。費用はこちらが負担するから、九条ギルド御用達の美容室で切ってこい』


 目元まである前髪を人差し指と親指でつまみながら弄る。


 邪魔で長くてウザったらしい前髪、か。ちょくちょく自分で切ってはいたけど最近は切ってなかったからなぁ…髪も伸び放題だっただろうし…


 霧世さんから教えられた場所に向かって暫く歩くと、『メイク・ステラ』と書かれた看板が見えてきた。


「おっ、あれかな?随分オシャレな美容室だな。まぁ九条ギルド御用達だし、当然っちゃ当然か」


 ヨーロッパ風のドアを開き、中に入ってみると、心を落ち着かせるような音楽に、心地の良い一定のリズムでハサミを動かす音がしていた。


 何か場違い感が凄く、中に入ったままその場に立ちすくんでいると店員が話し掛けてくる。


「本日予約していただいた方ですか?」

「あ、あぁいえ、違うんですけど霧世さんからここに来いと…」

「あぁ、霧世さんからご連絡を頂いていた高橋さんですね?」


 連絡行ってたのか…メイド服は着ていても社長は社長なんだな…


 かなり失礼なことを思っていながら、店員について行くとシャンプー台へ案内された。

 ふっかふかな椅子に腰を沈め、シャンプーボウルの方へ頭を移動させる。


「シャンプーしていきますねー」

「よろしくお願いします」


 顔にタオルを掛けられ、丁度良い温度のお湯が頭を濡らしていく。昨日は風呂に入らずに寝落ちしてしまったので濡らしただけでもかなりスッキリした。髪全体を濡らすと、優しく撫でるように指が頭皮を洗っていく。


 人に頭を洗われるなんて4年振りだなぁ。

 まず美容室に来ること自体も久しぶりだし。

 人に頭洗われるのってこんな気持ちよかったのかぁ…これから来れたら来よ。


 そんなことを思っていると、シャワーで泡が流され、シャンプーが終わった。


「次はヘアカットに移っていきますので、カット台に移動してください」

「分かりました」


 カット台へ移動し、どんな髪型がいいか聞かれるが、自分に似合う髪型が分かるわけが無いので店員のおまかせにする。

 店員と何気ない話をしながら手際よく、長かった髪は切られていった。


 店員との何気ない会話を楽しむこと数十分、鏡にはここに来る前とはひと味もふた味も違った男が映っていた。


 店員が生まれ変わったかのような俺に声を掛けてくる。


「髪を切るだけで人ってこんなに変われるんですよ!」


 確かに…前髪が無いだけで人って変わるんだなぁ。


 席を立ち、カット代を支払おうとするが


「お代はもう頂いてますので!」


 そういや九条ギルドが負担してくれるんだったな……金がない今、頭が上がらないよ…


 そんなことを思いつつ、ドアノブへ手を掛けて開く。

 俺は後ろを振り返り、こちらに笑顔を向けている店員、軽海かるうみさんに向かって言う。


「また来ます」

「はい!またのご来店お待ちしております!」


 ペコッと頭を下げて、俺は外へ出る。

 前髪が無くなり、視界が良くなったためか

 雲ひとつない青空がより一層綺麗に、俺の目に映る。



 グーっと伸びをして、清々しい気持ちになった俺は明日の配信の準備をするべく、速やかに家へ帰った。



 ------------

 えちょまです

 今日は髪切り回!配信回は明日だヨ!

 お楽しみに!

 それじゃ




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る