社畜、入社する 後編

 栗宮さんが一発、霧世さんに拳骨をかました。地面に膝を付きながら頭を押さえているところを見るとかなり威力があったらしい。


「その人仮にも社長じゃ……」

「………」


 …えなにその沈黙怖いんだけど。


 俺がビクビクしながら戦闘体勢を解くと、栗宮さんが急に頭を下げてきた。


「本っ当にすいません!今回呼んだ理由は社長が言っていた通り、九条ギルドにスカウトするためだったんです!しかし勝手にこの人が……」


 未だに跪き、頭を押さえている霧世さんを見下ろして握り拳を震わせる。今にも、もう一発がら空きの背中に拳を落とそうかとしている雰囲気を漂わせていた。


 何とかそれを堪えたのかこちらへ振り向き、再度頭を下げてくる。


「改めて、高橋さん…九条ギルドへ入ってくれませんか?」

「くれないかい?!」

「黙っといてください」

「はい」


 痛みが治まり、起き上がった霧世も栗宮の後に続いたが栗宮に黙れと言われ、素直に従った。


 ……正直言って、俺は迷っている。今は確かに職が無いため今後の生活が心配だ。でも、こんな社長が纏める会社に就いていいのかも分からない。ここまで大きくなったのは彼女の腕前もあるだろうが……狗柳の件があるので疑心暗鬼になってしまう。あいつも上手くブラックということを表には出ないようにしていたし、霧世さんもこんな感じだったr───


「言い忘れてましたけど我が社は週休3日、有給もかなりありますし、高給取りで通勤時の交通費やその他諸々の費用を一部負担します。又、プライベート中は本当に緊急事態の時だけしか連絡しません。どうですか?」

「入ります」


 ……フッ、我ながらチョロいな。週休3日に釣られてしまった…狗柳ギルドに勤めていた時にしっかりと休めた休日なんて一度も無かったし…


「本当ですか?!良かったぁ、入ってもらえて!…あ、すいません、高橋さんが今着てるスーツのサイズを聞いてもいいですか?高橋さん専用のスーツを仕立てるので」

「え…皆それぞれ自分専用のスーツがあるんですか?」

「はいありますよ。スーツには特殊な素材が使われていて、九条ギルド員だと直ぐに確認出来るように作られているんです」


 九条ギルドの技術に驚かされながら、栗宮さんにスーツのサイズを伝える。


 サイズを伝え終わり、これで呼ばれた要件は終わりかと思ったが…霧世さんが今度は普通の口調で話し掛けて来た。


「ちょいまち、今回ここに呼んだたのはスカウトのためだけじゃないヨ!」

「は、はぁ…それでは一体どのようなご用件で?」

「高橋クン…君には、ダンジョン配信をしてもらいたいのだよ」



 ゑなんて?はいしん?背信?配信?いやいやなんで俺が…


 俺の困惑してる顔を読み取ったのか、霧世が続ける。


「君は特異な存在だ。不遇職と呼ばれている荷物持ちでありながら、神隠ダンジョン最深層から無傷で地上に生還する強さ。これらが公の場に晒されたらどうなると思う?…正解は一躍ときの人だ。簡単には行かないだろうが、元々我が社は配信を生業としていてね。京香や君が昨日闘った藤木輝宮ふじきてるみやも配信をしている。彼女達もかなりのファンを抱えているが、新しい風でも吹かせようかと思ってね。それで、君に配信を始めて欲しいんだ…頼めるかい?」


 配信か…栗宮さんのように陽気に話すのは不得意だが、俺はもう九条ギルドに入ったのだ、拒否する理由は無い。


「分かりました。やります」


 俺がそう答えると、霧世さんと霧世さんの後ろに立っていた栗宮さんがお互いの目を見合わせて互いに笑った。仲がいいのか悪いのか…



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 えちょまです

 九条ギルドに入社し、配信を始めることになった優希、どうなる?!

 それじゃ

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