社畜、過去を思い出す 後編
俺は心に課せられている鎖を引きずりながら、高校へ入学した。
人当たりが良く、優等生を演技をしながら過ごし、着々と友人関係を築いていったある日、俺は彼女に出会った。
その日は文化祭前日で、あまりにも話しかけてくる生徒の対応をするのは大変だったので、体調が悪いから保健室へ行ってくると嘘を付いて教室から出た。
そして逃げるように来た校舎裏で、俺はボロボロの状態の彼女を見つけた。
制服はところどころ解れ、髪は乱雑にハサミで切られてボサボサ、彼女のと思わしき教科書は水に濡らされ破れていた。
それは誰がどう見ても、いじめの現場にしか見えなかった。
突然来た俺に驚いたのか、将又自分をこの状態にした犯人だと思ったのか、彼女は俺を視界に入れた途端に目に恐怖が浮かび、肩を震わせた。
俺は落ち着かせるために彼女に言葉を掛けた。
「大丈夫、落ち着いて。俺は君に危害を加えない」
「ほ、ほんとですか?」
俺が優しい口調で、危害を加えないと口にしたことで安心したのか目に浮かんでいた恐怖と肩の震えが治まった。
状況を把握するために彼女へ問い掛ける。
「どうしてこんなことに?」
「……それは──」
俺の問い掛けに、ポツリポツリと答える彼女。
彼女へのいじめの原因は、彼女の家が関係していた。彼女の父親と母親は両方医者で、かなり裕福らしい。それに嫉妬をした奴らからいじめを受けていたと答えてくれた。
両親は過保護で、少し怪我をしただけでも大騒ぎをするほどだった為、いじめを受けているなんて知られたら倒れるかもしれないと思って相談は出来なかったらしい。
ここまで育ててくれた両親には悪いと思いながらも、もう死のうとまで考えていたということも告白してくれた。
それを聞いて、俺は意外と端正な顔立ちをしている彼女の目を見た。
彼女の目に宿るのは家族を失った時の俺と同じ、絶望だった…でもまだその絶望から、人生どん底から這い上がれる目をしていた。
まだ遅くない、彼女は立ち直れる。失ったものが多すぎた俺とは違って、彼女は時間さえ掛れば立ち直れる、絶望の淵から這い上がれる位置にいる。
この時だけ俺は善人の皮を被らず、何も考えていないような表情で彼女にぶちまける。
「羨ましいもんだ、失ったものは自分の尊厳だけ。それ以外は何も失っちゃいない。いじめ如きで死にたいだ?馬鹿言うな、俺だって死ねるなら死にたい。でも出来ない、こんな風に死にたいと思っていても死ねない奴がいる」
「で、でも…いつも高橋さんは皆に笑顔を振り撒きながら楽しそうに…」
「あんなもの演技だ。心の中ではにこりともしてない。知ってるか?思ってもないことを表に出すことは疲れるんだぞ」
俺は彼女のことなど気にせずに本音をぶちまける。
暫く俺の本音を聞いていた彼女からフフッと笑い声が聞こえた。
は?と思いながら彼女の方を向くと──目が合った。彼女の目は先の目が嘘のように、より深い絶望に染まった目をしていた。それこそまさに…俺が家族を失った時と同じレベルで。
そして彼女は立ち上がり、少しはしゃいだ口調で呆けている俺に言った。
「あぁー私と同じ人がいて良かったー。高橋さんも私と同じだったんだね、自分を偽りながら何の理由もなく今を生きている。何かが枷になって、死ぬことを許されていない。高橋さん、私と貴方は同類よ」
彼女もまた、どこか狂っていたのだ。
そこから俺は彼女と一緒に過ごすようになった。話を聞くと彼女もまた、家族を失ったらしい、両親がいるというのは嘘だと言う。しかし、もうさほど気にしていないと言っていた。何故と問い掛けると、彼女は言った。
「家にはもう、家族との思い出なんか置いてないから気にならない」
この言葉こそが、俺が写真を破り捨てた理由だ。思い出の写真を置かないことで、家族との楽しい思い出を思い出さないらしい。
俺は教えてもらった通りに写真を破り捨てた。
思えば、あの時の自分は彼女に心酔していたと思う。
しかし、彼女との別れは突然やって来た。
彼女は異例の未成年でジョブが覚醒し、転校することになったのだ。
そこからは高校から去るまで俺は一日が十分のように思え、あっという間だった。
俺が心酔し、そして俺の同類だった彼女の名は────
ピピピピ、ピピピピ
「…久しぶりにアラーム通りに起きたな」
アラームを止め、朝日に照らされている机の上の写真を見つめた。どうやら俺はそのまま寝落ちしてしまっていたらしい。
再びスマホを開くと、一件のメッセージが来ていた。送信主は九条ギルドから、九時に来てくださいと書かれていた。
「…準備しなきゃな」
俺はソファから立ち上がり、洗面所へ向かう。洗面台前に立ち、冷えた水で顔を洗う。顔をタオルで拭いた後に、ふと鏡を見た。
鏡に映し出された自分を見て少し嬉しくなる。
何故なら隈が少し薄くなっていたから…
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えちょまです
なんか書いててんお?ってなったので改稿するかもしれない。
それじゃ
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