社畜、圧倒する

 未だに立って呆けている栗宮さんを無理やり現実に戻そうとするが……


「栗宮さん、起きてください。栗宮さん?栗宮さん?!ちょっ、大丈夫ですか?!」


 その場に倒れ込んでしまった。どうしたのかと思い近寄ってみると、栗宮さんの口が僅かに動く。


「ありえないです…荷物持ちが最深層から駆け上がって来たなんて信じないです…これは、そう!夢に決まってます!そうなんです!そうじゃなきゃ──」


「こりゃ駄目だ…」


《あぁ京ちゃんが壊れちゃった》

《これはねぇ、世間は許してくれませんよ》

《おい高橋お前のせいで京ちゃんおかしくなったぞ、どうするんだよ》

《荷物持ちなんて言うから…お前マジで何もんだよ》

《ていうかこの配信九条ギルド本部も観てるんだよな?なら高橋わんちゃん拘束されるぞ》

《確かにそうやったな、あそこ京ちゃんめっちゃ大事にしてるし》



 若干壊れかけている栗宮さんを尻目に、何やら物騒なコメントを見つける。


 こ、拘束?俺拘束されんの?え、ヤバくない?そりゃ分かるよ、大事な大事なギルド員を倒れさせたんだもん。

 いやでもこれは栗宮さんとリスナー達が聞いてきたことに答えただけだから俺は悪く──


 必死に自分に見苦しい言い訳をしているとドタバタと複数の足音が近づいてくる。

 その足音の行先が社長室ではないことを願いながら待機していると …願いも虚しく、やがて俺と栗宮さんがいる社長室に入り込んできた。


 その瞬間、


「…今のは?」

「標的発見!お前ら、標的を拘束しろ!」


 九条ギルドと書かれたスーツを身に纏っていたリーダーらしき男が、俺を見つけるや否や他に待機していたギルド員に命令し、瞬く間に俺は拘束された。


「え、ちょっ、待っ──」

「黙れ!貴様ァ…栗宮さんに何をした?!」

「え、いやただ質問に答えただk──」

「口答えをするな!黙れと言っている!」


 えぇ、そっちが聞いてきたのに…いやまぁ確かにこっちも悪いけどさ?ただ質問に答えただけでこんな目に遭うのかよ……社会って怖ー


 …しかし、おかしいな。抵抗しようとしても、さっきから全く身体に力が入らない、指一本すら動かせない状態だ。

 こんなのまるでが俺にないような…流石に考えすぎか 。


 身体が動かないことに気付き、何とか動かそうとしている俺を見下しながら、リーダー格の男が話し掛けて来る。


「無駄だ。今、お前の身体の所有権は私のスキルによって持っていかれている。抵抗は止めるんだな」


 やっぱりそうなのか…しかしどうやって、いつ俺の身体の所有権を?

 …もしかして、ここに入ってきた時か?あの時、明らかに俺の中から何かが抜けていった感覚がした。となると、そのスキルは接触してスキルが発動する『接触型』ではなく、周囲に影響を及ぼす『範囲型』…それだと非常に厄介なスキルになる。


 …うーん、どうしよ。相手の身体の所有権を奪えるなんてデタラメなスキルには絶対に何かしらの条件があるはずだし……ステータスが自分より低かったらとかじゃないかな?

 試してみる価値はあるし…そうと決まれば決行!何でも思い切りが大事だしね!


「ふっ!」


 どこか抜けた掛け声と共に、優希から尋常でない魔力が溢れ出し、部屋全体を瞬時に満たした。

 それは一般人がこの場に居たら耐えきれないレベルの魔力量だった。


 この魔力はアイテムボックスの派生スキル『アビリティボックス』にしておいたものだ。

 アビリティボックスは自分のステータスを保管できる能力を持っている。俺は、ステータスが高すぎて日常生活が普通に送れないため、かなりありがたいスキルなのだ 。


 魔力を放出してから少し経ち、自分の中に何かが返ってきた感覚がした。


「おっ、動かせるようになった。やっぱ条件合ってたんだな、俺って意外と天才かもしれないな」


 身体の所有権が返ってきた喜びと自分の想定が合っていたことに嬉しがる。


 しかし、そんな俺を他所に…水で満たされたグラスに更に水を加えるような、溢れ続けている魔力にあてられたのか、リーダー格の男以外のギルド員がその場で気を失う。

 唯一、気を失わなかったリーダー格の男も冷や汗を流し、過呼吸になっていた。男は気合で何とか意識を繋いでいるようなものだった。



 今にも気を失いそうな男は、優希に途切れ途切れに問う


「お前…は…一体……何者…だ…?」


 優希は京香やリスナー達に言ったように、少し躊躇って再び答える


「ただの荷物持ちだよ」


 その回答に男は驚きの表情を見せた後、フッ、っと吹き出し、男の意識は深い闇に沈んだ。







 一方、優希の放った魔力で目覚めた京香は…


「……きっと疲れてるんだよね。そうに決まってるよね…」


 死んだような目をして、またその場に倒れ込んでいた。



《…ゆっくり休んでね》

《うん…なんて言うか…うん…おつかれさま》

《今日で俺の中の荷物持ちは不遇職っていう概念がぶち壊された気がする》

《わいもや 》

《今日はもう寝ようそうしようおやすみ》

《そうしよか、おやすみ》

《電気消すで》

《サンクス、おやすみ》

《おやすみ》

《おやすみ》



 リスナー達も京香と同じように現実を受け入れられないようだった。




 ---------------

 えちょまです

 なんと10000PV達成出来ました!皆さんありがとうございます!これからも頑張っていくので応援よろしくお願いします!

 今回は色々とカオスになった希ガス

 次は優希の過去?みたいな感じ書く‪[‬か︎︎も‪]

 それじゃ





















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る