社畜、自覚する

 ものすごい早さで流れていくコメント欄の中に、昨日の神隠ダンジョンについてのコメントがちらほら見える。

 そのコメントをリスナーたちも見たのか、徐々に増えていき……数秒後には、コメント欄はその話題一色になっていた。


 この状況……非常にマズイ。

 このままだと俺は女性有名配信者兼S級探索者にぶつかっても謝罪を適当に済ませたクソ野郎として社会的死を迎えてしまう。そうなったらいよいよ俺の人生は終わりだ。

 ひとまず事情を説明すればイケるか?でもそれで納得されなかったら……


 頭を悩ませていると栗宮さんが、俺の様子が変だと思ったのか心配そうに話し掛けて来る。


「あの、大丈夫ですか?もしかしてどこか体調が悪いとか…」

「いえ、別に大丈夫です、どこも悪くありません。それより昨日は碌に謝罪を出来ず、すみませんでした。昨日は会社に呼び出されていたので急いでいて…」


 俺は栗宮さんに向かって土下座の体勢に入ろうとする。


「あわわわわ!ど、土下座はやめてください!もう私は気にしてませんから!…リスナーは気にしてたみたいですけど 。……とりあえず悪気は無かったんですよね?それなら大丈夫です!」


 あわあわとしながら俺の土下座に入る動きを止める栗宮さん。そして意外にあっさりと昨日のことを許してくれた。

 め、女神はここに居たのか?!

 ……ひとまずお許しを貰えて良かった。これで俺は社会的死を迎えなくて済む。


 そう思っていた矢先、コメント欄は別の話題で溢れかえっていた。それは……



《ぶつかったのは京ちゃんが許したからいいけど、なんで最深層から駆け上がってきたんだ?》

《神隠ダンジョンの最深層は他のダンジョンの数倍危険のはずなんだけど》

《それ以前に神隠ダンジョンは上層でもかなり危険だぞ》

《高橋…お前ほんとに何者なんだ…》

《両手に短剣も握ってたし、ジョブは戦闘職か?》



 …え?神隠ダンジョンの最深層ってそんな危険なの?それ以前に上層ですら?

 だって荷物持ちの俺でも攻略出来たんだぞ……もしかして俺って、強い?

 いやいやいや、流石にそれは無い、自惚れすぎだ。きっと栗宮さんにぶつかった腹いせにみんな俺を揶揄おうとしてるんだ。


 そう思っていた時期が俺にもありましたよ。


 栗宮さんはコメントを見て、思い出したように俺にキラキラとした眼差しで尋ねてくる。

 その質問が俺は強いという確信に変わらせた。


「高橋さん!どうして神隠ダンジョンの最深層に居たんですか?!ジョブは戦闘職ですよね?!あそこは私でもひとりで立ち入ったら普通に死ねるレベルなんですよ?実際どうなんですか?!」


 …ッスー、あぁ、俺って、俺って強かったんだ。


 神隠ダンジョンの最深層はS級探索者である栗宮さんですら立ち入ったら普通に死ねるレベル、しかも上層でもかなり危険なダンジョン…それを無傷で地上に帰還した俺…訳が分からない。……考えていても埒が明かないし、栗宮さんの質問に答えよう。


「あそこに居たのはうっかり転移魔法陣に乗ってしまったからです」

「うわ、運が悪いですねー転移魔法陣って通常は少し移動するだけのはずなのに…それで、ジョブの方は?」


 俺は少し躊躇ったが、正直に自分のジョブを言った。これを言ったら絶対に信じてもらえないから…


「荷物持ちです」

「えっ」



《嘘つけ》

《嘘をつくな》

《嘘をついても何もいいことないぞ》

《さぁ、早く本当のジョブを言いたまえ》



 荷物持ちの証拠として、荷物持ち専用スキル・アイテムボックスを展開する。フワフワと俺の手の平で浮遊する立方体は俺が荷物持ちだと証明した。



《アイテムボックスってことはこいつまじの荷物持ちだぞ》

《荷物持ちでここまで強くなれるのか?》

《いや歴代の荷物持ちでも最深層から帰還できる荷物持ちなんていなかったゾ》

《現代最強の荷物持ちで草》

《お前人間じゃねえ!》


 散々な言われようだ。

 っていうか現代最強ってなんだよ現代最強って、初めて聞いたぞ。

 生憎俺は高校卒業してからネットサーフィンなんてする暇もなかったのでここ数年の情報は知らないのだ。


 未だに信じられないと感じさせるコメントを眺めながらはぁ、とため息を吐く。

 ふと栗宮さんが気になり、見てみると……まるで先程の狗柳のように、呆気取られていた。





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 えちょまです

 今回は優希が自分の強さを自覚する回となりました。

 それと現代ファンタジー週間55位に入りました。この調子で20位ぐらいまで行きたいです。応援よろしくお願いします。

 それじゃ







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