♡1LGBTのお部屋♡

タカナシ トーヤ

住宅の内見

「ルームシェアしない?」

色っぽい声でそう提案してきたのは、ナオだった。


「ルームシェア?同棲ってこと?」

驚いたひーちゃんは、つい地声で切り返したあと、咳払いした。


「同棲っていうと、アレだからさ、友達同士でルームシェアということで。うちら、お互い気ぃ使わなくて、楽じゃん。」

鏡を見て化粧しながら、ナオが続ける。


ひーちゃんは一瞬乗り気になりかけたが、すぐに以前の苦い思い出が蘇ってきた。

「ナオは細くて普通に女の子に見えるからいいけどさ、ひーちゃん、声も低いし、肩とかゴツいから、前彼、社会人で収入もしっかりあったんだけど、同棲しようとしたとき、部屋探し断られて大変だったんだよ。だからたぶん、難しいと思うさ。」


「だったら、ナオとひーちゃんなら普通に大丈夫なんじゃないの?ナオ女の子に見えるんでしょ?」

ナオは唇を尖らせてリップを塗っている。


「そんなうまく行かないと思うよ〜。免許証とか、住民票とか、色々出さなきゃなんないし。ひーちゃん、名前、秀俊だし、この見た目だからねぇ。」

茶色のミディアムヘアを後ろにかきあげながら、ひーちゃんは悲しそうに話した。

ひーちゃんは世間一般の「イケメン」に分類される見た目で、肩幅や骨格がかなりしっかりしているが、派手なメイクが大好きだ。芸能界にでもいれば、別に浮かないんだろうけど、まだまだクラスでは浮いてしまう。


「ふーん。ナオは、ひーちゃんがはじめての"同棲"だから、わかんないけど。」

ナオは少し不機嫌そうに背中を向けて、パソコンをつけた。


2人は、恋人ではない。お互いに、中身が女の子で、好きになるのが男の子だからだ。


でも、そんな話を共有できる数少ない親友であり、お互いに、お互いを美形だと思っているので、相手に恋人ができるのは、ちょっと嫌だったりもする、そんな複雑な関係だ。



物件サイトをスクロールしていたナオが急に手を止め、真顔でひーちゃんを見た。

「ねぇねぇ、この検索ボックス見て。"LGBTQ歓迎"って書いてあるの。」

長い黒髪を指でとかしながらナオが手招きした。


ひーちゃんは誘われるままに画面を覗きこみ、驚いて高い声を出した。

「えー!うっそー!!すっごぉーい!!この検索でひっかけたら物件探しなにも困らないじゃーん??」

ひーちゃんの顔が、太陽のようにぱあっと明るくなる。早速2人は物件を検索した。

「うちの区で、1LDK、LGBTQ歓迎っと。」

「略して、1LGBT。」

「ぶっ!笑」

真面目な顔して急にギャグを言うナオに、ひーちゃんは思わず吹き出した。


「さあ、何件かな!?」








—該当結果 1件—





ひーちゃんは大袈裟にため息をついた。

「ほらぁ〜、だからゆったじゃ〜ん。やっぱこんなもんよ。こんな検索ボックスがあったら、逆に、これ以外の物件は住んじゃだめって言われてるようなもんじゃない。」



ナオは真顔を崩さない。

「でもさ、逆にいうと、この1件は確実とも言えるわよね。ここからも、電車で2駅だし、行ってみましょ。」


ナオは早速不動産屋にコンタクトをとった。


------


LGBTQ歓迎物件で話を通しているだけあって、不動産屋でも話がスムーズだった。担当の営業さんも、感じがよかった。


15分ほど車で送ってもらい、淡いピンク色に塗られた4階建てのアパートについた。築年数はそこそこありそうだが、塗り替えられた壁の色や、花壇を見ると、しっかり手入れされている感じがする。

「このアパートは、大家さんがかなり個性的な方で。1階に住んでいらっしゃるのですが、直接お会いしたいそうで。」

そういって営業さんが大家さんの家のインターホンを鳴らした。


「はーい♡」


たくさんの犬たちとともに、大柄なゆるふわパーマの大家さんが出てきた。年齢は、40歳前後だろうか。


「いらっしゃ〜い♡ウェルカム♡うちは、LGBTQ歓迎っていうより、むしろそういうメンバーしか入居していないから!!安心して入居してね♡」

そういうと、大家さんは3人を中に招き入れ、ダージリンティーを淹れた。


「新しい方がくるの、3ヶ月ぶりよ!!夜、アパートのみんなで歓迎会しましょ♡」


------


大家さんの家でおいしいお茶菓子をご馳走になったあと、ふたりは新居となる部屋を内見した。

若干の古さは感じるものの、清潔感もあり、使い勝手もよさそうだ。


ナオとひーちゃんは、この非日常すぎる出来事に興奮し、営業さんがいるのも忘れてこれから始まる新生活に浮かれていた。


「ねぇナオ、もう、最高すぎじゃない??この1件は、うちらのためにあったんだよ!!!なら安心だし、歓迎会までしてくれるなんて!!!」

「ひーちゃん、ここ最高だね!!!大家さんもいい人だし、もう、うちら、ず〜っとここで暮らそう?」

ナオは少し照れながら、ひーちゃんの手をとった。

ひーちゃんは、少し照れながら、ナオの手を握り返した。






————ふたりはまだ、気づいていない。16部屋25人の個性豊かなメンバーが集う、この小さなアパートは、日々恋のドロ沼激戦バトルが繰り広げられてる舞台でもあるいうことを‥‥————





〜完〜

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♡1LGBTのお部屋♡ タカナシ トーヤ @takanashi108

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