第9話 嘘コクなんて些細なことと知った女◇サクラ◇
リュウに私の告白が嘘コクだってバレてた。
断罪タイムが始まる。
「あっ、あの、リュウ」
けど、予想してなかった言葉が、リュウの口から出てきた。
「あ、気にしないで秋庭さん。俺、嘘コクでも構わないし」
「え、え、え・・」
「ごめん、先月の放課後、偶然に教室の前を通りかかって、嘘コクから俺としばらく付き合ってくれること知ってたんだ」
リュウが、最初から知ってた?
「最初は軽いノリで付き合ってくれた感じだけど、途中で雰囲気が変わってきたよね。冬美のこと知ったんでしょ」
嘘コクで騙そうとした私が取り乱していて、なぜ傷つけられたリュウが笑っているんだろう。
「ありがとう秋庭さん。同情でも、すごく優かったもんね。お陰でこの1か月は気持ちが楽だった」
「ごめっ、ごめんリュウ」
「謝らなくていいよ、秋庭さん。だったら俺からも謝らなきゃ」
「・・なにを」
「俺も秋庭さんを利用させてもらった。冬美に秋庭さんが似てるから、冬美の代わりにしちゃったんだ。申し訳ない」
そうだった。ちょっと前にマキに見せてもらった写真。あの中で笑ってた女の子は私に似てた。
私に彼女を重ねてると思うときはあった。けど、そんなこと構わない。
「だけど私、この1か月でリュウのいいとこ沢山知って、リュウが・・」
信用されなくてもいい。本気の告白だけさせて欲しい。
「ちょっと待って」
「あっ・・」
「秋庭さん達が俺をからかってるんじゃなくて、真面目に接してくれるようになってたのは俺も感じてた」
「ごめん、ふざけて近付いて、けど私・・」
「大丈夫。俺の中には何もわだかまりはないよ。だから・・」
私はリュウの顔を見た。リュウは嘘偽りのない、優しい目を向けてくれた。
こんな馬鹿な女に。
「だから、秋庭さん、これからも友達でいてよ」
「・・あ」
私はショックを受けた。
許されないことをしたのに許された。
だけど私は図々しくも、嘘コクのこと隠してリュウの彼女になりたいと思っていた。
だけどこれじゃ彼女になれない。
これからクラスの中で、リュウはみんなと仲良くなっていくだろう。
リュウに好意を持ってる女の子と、リュウの仲が深まるのだろか。
それ黙って見ているしかないのだろうか。
そして裏で泣きながら、笑って祝福するのが私への罰なんだろうか。
「とも・・だち?」
「うん、もう俺が冬美と付き合えないの知っただろうけど、やっぱり冬美のことが・・」
付き合えない? だったら、せめて私の誕生日に会いたい。引導を渡されるにしても、その日に会いたい。
「リュウ、私はリュウのことが本当に・・」
リュウは笑顔を崩さず、私が知らない顔になった。
優しくて、悲しくて、見ているだけで泣きそうな瞳。
「前に観覧車から東の方に岬が見えたの、覚えてる?」
遊園地の観覧車に乗ったとき、前に街と海、そして右の方に岬があった。
「冬美、あそこにいるんだ」
やっぱり冬美さんはフランスから帰国しているんだ。そして明日、リュウと会う約束をしている。
たしか、あの岬があるのは隣町。電車に揺られて30分くらい。その気になれば、いつでも行ける。
「秋庭さんごめんね、13日の誕生日にお祝いしてあげられなくて。てっきり、もうその頃には俺達の付き合いは終わってるかと思ってた」
「そんなこと考えてない。図々しいけど私、リュウと仲良くしたい」
やっと言えた。私は嘘コク女、冬美はリュウを捨てた女。
最低な2人の争いになるけど、私は負けたくない。
「・・そっか、ありがとう。俺、明日こそ冬美に報告してくるよ。素敵な友達が増えたって」
「え」。私はリュウの顔を改めて見た。
「お墓あるんだ。冬美、あそこで眠ってる」
「お・・はか」
それからリュウが何を言ってたか覚えてない。
リュウのことよく知ってるマキの話を理解してなかった。
なんでマキが、リュウを元気づけただけで、あんなに私に感謝したか。
マキが『冬美』の写真1枚を見せるだけで、なんであんなに慎重になったのか考えてなかった。
リュウのことを好きになって、浮かれすぎていた。
なんで、リュウが嘘コクと分かっていて、あんなに簡単に私を受け入れたか。
嘘コクされるなんて、すでにリュウの中では大したことじゃなかったんだ。
◆◆◆
帰りにリュウに家の前まで送ってもらった。
最後に念を押された。
「俺が忘れるから秋庭さん罰ゲームのこと、2度と口に出しちゃダメだよ。誰かに聞かれたら、友達2人にも迷惑かかるからね」
リュウは被害者なのに、こんなことまで考えてくれる。
私とリュウのことを心配していたアンリから電話をもらったけど、まともに話せなかった。
アンリがメグミを呼んで、家まで来てくれて、私の部屋の中。
メグミがネットで冬美さんのフルネームで調べ、アンリが彼氏のツテを思い出してリュウの知人に聞いてくれたら、拍子抜けするくらい、簡単に事実が分かった。
去年の6月13日、冬美さんはフランスで交通事故に巻き込まれた。
そして両親とともに亡くなっていた。
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