第8話 嘘を隠したまま好きと言おうとした女◇サクラ◇
6月12日の昼休み。
アンリ、メグミと3人で昼ご飯を食べたあと、自販機でジュース買おうってなった。
リュウ? 同じ中学出身のマキ、ダイチに呼ばれて、今日のお昼は久々に別行動。
クラスでは、間違いなく私がリュウの一番の仲良しで認知されてる。けど、誰も付き合ってると思ってない。
リュウが周りにも優しくなって、誰とでも仲良くなってきてる。輪の中心にいる。
そのリュウが私達を立ててくれるから、クラスはすごく居心地がいい。
「リュウとサクラは進展なしか・・」
「リュウって、サクラのこと好きな気がするんだけどな・・」
自販機の近くに来たとこで、リュウの声がした。
「・・最近は、元気出てるよ。気使わせてごめんな、マキもダイチも」
あまり人が来ない場所の自販機の先に曲がったとこ。要するに秘密の話をするとこから、聞き覚えがある3人の声がする。
私達3人は自販機にお金を入れず、足を止めて目を合わせた。
小声だけど、会話は聞こえる。
「リュウ、本当に元気になったよね」
「やっぱ、あの秋庭サクラ達の存在が、大きいみたいだな」
「うん。気落ちしてるときに、秋庭さんが声かけてくれたから、なんとか持ち直せた」
「ある意味、恩人なんだね」
「・・すごく感謝してる。グイグイと引っ張ってくれて、余計なこと考えずに楽しいときがある」
「・・よかった」
「あ、ごめんなマキ、それにダイチも・・。2人とも長いこと励ましてくれたのに」
「いや、いいよ。こういうのって、意外と当時の出来事とか知らない人の方が、うまく癒せたりするんだ」
「で・・余計なお世話かも知れないけど、リュウ・・」
「なに、マキ」
「秋庭さんと仲良くね」
「ああ、友達として、うまくやっていきたい」
リュウの『友達』がなんか刺さった。
「俺が冬美のこと・・忘れようとしてんのに分かってるみたい。秋庭さんって優しいんだ。だから、それも分かってて、一緒にいてくれる感じなんだよね」
「あ、その理由は・・」
「そうか、なんにせよよかった」
マキが、私がリュウを好きって言いそうだった。だけどダイチが止めた。
リュウはまだ、私の本当の気持ちは知らない。ダイチに止めてくれてありがとうって、言いたい。
「ところでリュウ・・明日のだけど」
「・・もう6月13日になるね」
「うん」
マキの声が、また真面目になった。
「俺、学校休んで冬美のとこいくよ」
え?
え、え?
メグミとアンリも、え?って顔。
あしたの13日、私の誕生日。リュウは元カノに会いに行く?
「リュウ、一人で大丈夫?」
「ありがとマキ、自分だけで行けるよ」
アンリ達を引っ張って、その場から離れた。
「何あれ・・」
「どういうこと?リュウの元カノって日本に帰ってきてるんかよ」
「じゃあ、先に約束があったから、サクラの誕生日断ったのか?」
「いいのかよ、サクラ」
「けど・・確かに、リュウと私、正式に付き合ってない。冬美さんへの思い残したままなんだよ。少し前から感じてる」
「けど、それずるく・・」
「私、気付いたんだ。この付き合いの図式に。私から告白したのに、私の方からデメリットなしで、リュウを捨てられるように形作ってある」
「だけどよ」
「そもそも私、リュウを騙そうとしたんだよ。リュウに知られてなくても、事実は消えない」
「あ」「うぐ」
メグミ達も、イタズラを仕掛けようとした仲間。良心に訴えると、言葉が出てこなかった。
◆◆
放課後、私はリュウと一緒に帰る約束をしていた。
複雑な気持ちで駅前を歩いている。
けど、聞かない訳にはいかない。
「リュウ、冷たいもの飲もうよ。おごるから」
「じゃあ、ゴチになろうかな~」
「よっしゃ、クッキーもつけるよ」
コーヒーショップに入り、周りに人がいない席が空いていた。
私は緊張を隠して、リュウの前に座った。テストの話、クラスメイトの話、矢継ぎ早に出てくる。
これだけでも嬉しくて楽しい。
だけど今日だけはリュウのペースを崩させてもらう。
「リュウごめん、話があるの」
「・・はいな」
私は、申し訳ないが話を断ち切った。リュウは驚くくらい真顔になって応じてくれた。
私はアホだ。
なぜ、リュウが告白前に小綺麗になったとか、自分が何をしたかとか考えてなかった。
元カノの冬美さんに、私の誕生日6月13日に会いに行くリュウに聞きたいことで、頭がいっぱいだった。
おそらく、何らかの形で冬美さんがフランスから日本に帰国してる。
2人が会う前に私が好きって伝えようと、そればかり考えてた。
「リュウ、私、先月の13日にリュウに告白したでしょ。だからね・・」
「ああ、そのことだね」
リュウのトーンが変わった。すごく軽くなった。
「嘘コクのことだよね、秋庭さん。もう1ヶ月近くなるし、そろそろ種明かしされる時期かな~って」
困った笑い方をしてるリュウを見ながら、頭の中が真っ白になった。
私、これから仕返しされるんだ・・
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