第3話 嘘コクなのに尽くされる女◇サクラ◇

春田とは平日ベッタリで、週末は会わなかった。


メグミ、アンリからの指令は『土日のどっちかで観覧車に乗れ』というもの。


もう2回も春田に断られてる。代わりにフォローがすごい。


春田は高1のときから週末はバイトしてると言ってた。


変化も自然で、こっちが本性だと思えるくらいに明るい。


きちんと見ると、成績も上の方。


週末も会わなかったけど、こまめにLIMEを交換した。音楽の話題になったとき、電話に切り替えた。結構楽しかった。


嘘コクから1週間もすると、なんだか優良物件に思えてきた。


火曜日5月21日


月曜日は春田と私で昼ご飯を食べて、一緒に下校した。


そして今日火曜日、春田がみんなの前で私からモテる秘訣をアドバイスをもらったと嘘を振り撒いてた。


春田、いや早くもクラスに受け入れられて、リュウって呼ばれてる。


又聞きの又聞きをしてきたやつによると、すげー美人の幼馴染みと中学の頃に付き合ってたそうだ。


彼女の方がべた惚れで、リュウの方が恥ずかしがってたって話だ。


もう、あっちの方も経験済みって噂もあったそうだ。それを言ってたのが、他ならぬ幼馴染みちゃんだって。


名前は冬美。


彼女が1年半の約束で、親の出張先であるフランスに強制連行されたと。


すげー仲良しだったのに、離れて3か月もたたずに、リュウと音信不通になったって話だ。


そこからリュウは約11か月の陰キャ生活。


「通りで、自然にキャラチェンジしたと思ったら、今の方が素だったわけね」

「うん、なんていうか、靴とかおしゃれなのに履き替えてたもんね」


リュウがいない教室で、メグミ、アンリも交えて何人か話してた。


ぼそぼそと3人だけになって話した。

「ちょっと可愛そうだなー」

「リュウって人気急上昇だし、ちょっと嘘コクとか黙ってようか」


「だねー。リュウもクラスで、私と付き合っているとか言ってないもんね」


「なんで言ってないんだろう」

「リュウによるとだね、正式に付き合うなら、もっとお互いを知ってからの方がいいでしょ~って。私が無理と思ったら、ただのクラスメイトに戻ろうって言ってくれた」


「そっか、意外に大人ー」

「でしょ。話してて、結構、うなずくことあんだよね」


「へーサクラの中のリュウの評価って高くなったよね」

「なんでだよ」


「うーん。目かな。私を見るとき、すんげえ優しい目になんだよね」


「ふーん」


「あと、こっちが嬉しくなるタイミングで感謝してくれる」


「ああ、そういう男って意外にいないよね。何でも無差別に褒めたら、優しいって思われてるって勘違いするやつ多いし」


「けどさ、サクラ」


2人が嫌な笑いを浮かべてる。


「罰ゲームのミッションは続けるからね」。そこだけは譲ってくれないか・・


けど、楽勝なんだよね。昨日もミッションに沿ってリュウと一緒に公園を歩いた。海浜公園の方だったけど、すごく自然だった。


歩き方も、常に左側に誰かがいたような、その人の代わりに私を労ってくれるような感じだった。


食べ物の話。

音楽の話。

映画や好きなエンタメの話。

学校の話。


すんごい笑顔なの。


学校の話に関しては、リュウはここ1年間は積極的に関わってこなかったみたいだから、私が一方的にしゃべった。


昨日も飲み物なんかをごちそうになった。惰性でバイトを続けてて、1年間はまったく無駄遣いしてないから大丈夫だそうだ。


元カノさんが帰ってきたら一緒に遊ぶため、バイトを始めたんかな。ちっと悪い気がするから、次から私も払おう。


仲間2人には悪いけど、がっついたり、キョドったりとか、面白ハプニングはないんだよね。


◆◆◆

次の日曜日、5月26日。


メグミ、アンリの指令を考える必要もなく、リュウから遊園地に誘われた。


水曜日にLIMEが来た。『日曜日、遊園地に行きませんか、サクラ師匠。付き合っていただけるなら、ご招待いたしやす』


私も返した。『付き合って進ぜるがのう、割りカンがよいのう』


当日の遊園地は混んでたけど楽しかった。


思えば私は、遊んでるように見えて男性経験も未遂の1回のみ。本当は処女だ。


メグミとアンリに出会ってなければ、今の陽キャっぽく作られた自分はなかったと思う。


男子とのデートで遊園地なんて初めてだ。


嫌がるリュウの手を引いてジェットコースターは笑えた。逆に暗いところが嫌なのに、ホラー館みたいのに連れて行かれた。


疲れるくらいにアトラクションを楽しんで、最後にメグミとアンリのミッション通りに観覧車に乗った。


観覧車から写真を撮って、アンリに送って『ミッションコンプリート』


「ごめんねリュウ、スマホいじちゃって。リュウ・・・」


右側の窓から外を見るリュウの目が、ものすごく悲しそうに見えた。


思わずリュウの視線の先を見ると、私達の街の北東側にある岬の方だった。


「え、あ、ごめん秋庭さん。なんだっけ」

「あ、岬の方をじっと見てたな」


リュウは何も言わずに、私の方をじっと見ている。



なんの嫌らしさもない、本当に優しい目で見つめられた。


家族もこんな風に見てくれない。じんわりと胸が熱くなる。


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