第4話 嘘つきなのに惹かれる女◇サクラ◇

5月27日、月曜日。


私、秋庭サクラが嘘コクして、春田リュウタロウことリュウと付き合い始めて2週間。


リュウの気遣いで、クラスの中では友達ってことになってる。


私が嘘コクしたときは、どうフればいいかとか考えた。今の形が気楽だ。


正直に言うと最近は楽しい。


今は、放課後の教室の隅で勉強中。私が来月末のテストが憂鬱だって言ったらリュウが勉強教えてくれてる。


今からヒントをつかんでおくと、のちのち楽になるからって1週間は放課後の勉強会だ。


◆◆

早くも勉強を教えてもらって3日目。今日でリュウに嘘コクして3週目に突入。


相変わらずリュウは、みんなに上手に受け答えしてる。


「春田くーん、今日も秋庭さんに勉強教えてあげてんだー。いいなー」

「でしょー、ここで恩を売っておくと、テスト後にお願いを言いやすいからね」


「え、まさか・・」

「えろいこととか・・」


「いやいや、俺に無理言わないでよ。まずは服を買うの付き合ってもらって、格好よくしてもらうの」


「・・えええ、そっちの方が無理じゃねえ?」

「春田君、・・いくらイケてる秋庭さんでも、できないことあるからね」


「みんながいじめる。できるよね、秋庭さん」


「私でも、そりゃ無理だ。もっとハードル下げてよ、リュウ」


「だろ」「無茶だって」


以前は私達を煙たがってた子達も、一緒に笑うようになった。


リュウには、すごく人をなごませる力がある。


最近は、リュウのおかげで幾らか距離を感じてたクラスメイトと仲良くなってる。


それはメグミ、アンリも同じように感じている。


私がリュウが本当の彼氏彼女の関係になっても、ならなくても、良好な関係が築けそうな感じ。


だからメグミ、アンリと3人で話して、あたし達さえ漏らさなきゃいいから、嘘コクのことは黙っていようってなった。


「所詮、悪くなりきれない中途半端なアタイ達が、リュウに救われたかもね」とメグミが呟いた。


私とアンリも納得した。



なんだか、あきらめてた勉強にも少し力が入り出した。


リュウに1回だけ、家族とのこと話してしまった。


けれど、中途半端な慰めじゃなく、楽しみ方を提案してくれた。


「それじゃさー、2教科以上の順位が前のテストより上がったら、俺がお祝いしてあげるよ」


「それ、励みになるね」

「漠然とした目標より、ちょっとしたご褒美に向かって頑張ろうか。それなら手伝えるよ」


今日でリュウと関わり出して半月程度なのに、時間が濃い。


勉強を教えてもらってるときも、勉強だけできるやつに多い、上から目線がない。


兄と母には『なんで、これが分からない』って言われて苦痛を味わってきた。


春田は違う。まず真剣に私に話をさせる。


そんで何が分かってないかを探そうとしてくれる。すごく根気がいる作業で、疲れるけどやってくれる。


リュウの口調が少し厳しくなるときもあるけど、すごく嬉しい。


「あ、解った。この公式って、こう当てはめるんだ」

「やった秋庭さん、これで授業も楽になると思うよ」


「さんきゅ、リュウ・・・」


ハイタッチしようと手を出したら、向こうも返してくれた。


私、それよりリュウの目が気になった。


なんだろうこの、嬉しそうで、悲しそうで、今にも涙が出そうな目。


リュウは私と幼馴染みの元カノを重ねてるのかもしれない。


考えてみれば、教え方のうまさは勉強が自分よりできない幼馴染みに、長いこと教えてきたと思えば納得できる。


ちょっと、もやっとする。


嘘コクでリュウをからかおうとしたくせに、その冬美さんが気になる。


こんないいやつ、なんでフッたんだろうとか考えてる。1年半で日本に帰ってくるならあと3か月もすれば帰国する。


そんときリュウは、どうするんだろうとか思った。


「あれ、私って何考えてるんだろ」


その週の放課後は、3回も一緒に帰った。


6月1日の土曜日には、水族館に付き合ってくれって言われた。


もちろんOK。


◆◆◆

5月31日の金曜日、次の日のことを考えて、かなりいい気分でいた。


昼休み、メグミ、アンリと連れだってトイレに行った帰り、リュウの知り合いの男女に呼び止められた。


5時間目は使われない音楽室の前で5人だけになった。


私達を呼び止めたのは2人とも2つ隣のクラスで女がマキ、男がダイチ。


どっちもリュウとは小学校から面識があって、マキがリュウと仲がいい。


最近は私もリュウと仲良くなった関係で、よく喋る。


「どうしたの改まって。教室じゃまずい話なんだね」


マキの方が話し出した。


「最近、リュウが明るくなったよね。3人に感謝してる。ありがとう」

「お礼を言うために、わざわざ呼び止めたのかよ、律儀だねー」


「それでね、あの・・・」

「どうしたの」


ダイチが言葉を引き継いだ。

「秋庭さん、リュウから幼馴染みのこと聞いてる?」


メグミとアンリも、ああそうかって顔。リュウの幼馴染み、要するにリュウをフッた元カノでもある子だ。


リュウからは聞いてない。だけど素直に聞いてないと言いたくない。


なんでだろ・・・・・そうか。



私、リュウが好きになってきてる。



表面的な優しさだけじゃない。


家族にも大事にされてない私のいいとこを探してくれるリュウ。


嘘コクって知らないとはいえ、すごく大事にしてくれる。



きっとこのとき、会ったことがない『冬美』に嫉妬してたんだと思う。


つい嘘をついた。


「冬美って人のことでしょ、聞いてるよ『リュウ』から」


リュウの友達のマキが、はっきと分かるくらい顔色を変えた。



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