第2話 嘘コクする女、承知で受ける男◇サクラ◇

◇サクラ◇秋庭サクラ、159センチ、Cカップ。


罰ゲームで暗い男子に告白することになった。


5月13日、学校に行ってみると、隣の席で嘘コク相手の春田リュウタローが雰囲気を変えてた。


長髪の小汚い感じから、ツーブロックの清潔な印象。ハンサムではないけど、似合ってて変な不快感もない。印象が良くなった。


「おはよう秋庭さん」

「おはよ。春田」


前からちょっと気になってた笑顔だ。


こいつ暗かったけど、同じ中学のやつ2人が他クラスからよく遊びに来てた。男と女ね。


私が話かけても最低限の返事だけなのに、そいつらとは話が弾んでた。そんで優しい目になるんだ。


来るのは男女のペアだけど、春田は丁寧に接してた。


「ごめんなー、色々と気を使わせて。俺もそろそろ元気出すよ」


そんな会話聞こえた。


ちらっと女の名前も聞こえた。フユミだな。そいつにフラれたんだね。


春田と本気で付き合う気はないけど、ちっと慰めてやりますか。



私、今はギャル。進学校に通っているけど、すでに落ちこぼれ。


兄と姉がいて、どちらも優秀。父も母も学歴至上主義で子供時代から兄姉と比較されてきた。


中学まで頑張って今の学校に入っても兄姉に比べてランクが落ちた。一応のお祝いはしてくれたけど、その後は無関心。


私の心はすさんだよ。


メグミ、アンリも似たような環境で育ってて、共感できた2人とつるんでる。


私、頭はともかく顔はいい方。だからメイクして、ちょっと遊ぶようになったら一目置かれたね。


アンリの彼に女慣れしてる男子を紹介してもらった。


去年の夏くらい、とにかくイケてなきゃってあせってたんだよね。処女喪失を目指した。


だけどいざ、ラブホに行ったら怖くなった。大泣きして、相手に引かれた。


それからあんま会わなくなって、向こうが違う女に乗り換えたとき、なんか安心した。で、さよならした。


一応は経験アリって言ってる。半端もん。


まあ、一夏の経験のフリや派手になった見た目から、もう引き返せない。


今回は3人で話して、ノリで嘘告白でも仕掛けてみようかってなった。


ネットとかに流したら、犯罪だからやらない。


◆◆


私は軽い口調で言った。


「春田、前から気になってたんだ。付き合って」

「はい秋庭さん。よろしくお願いします」


昼休みになって、春田リュウタローを呼び出して告白した。


まあ、こいつのことだから驚くだろうし・・返事は?


え、返事。もう返ってきてるよ。


「びっくりしたよ。クラスでも一番人気の秋庭さんから告白なんて。絶対に逃せないから、食いついちゃった」


「あ、ああ、OKしてくれて私も嬉しい」


考えることもなく即答されていた。


簡単に私達はスタートしてしまった。


ぴろん。メグミとアンリからLIMEが来た。


「メール鳴ったね。どうぞ」

「あ、ああ」


『ミッション。告白成功なら、一緒に下校してクレープ屋に行け』


いきなり来たな、と思った。


「あのさ、春田、今日だけど」

「ごめん、今日は外せない用事があるんだ。明日はどう」


「そうか・・じゃあ、それで」

「行きたいお店とかある」

「クレープ屋」


あ、ミッションにあったから、思わず答えてしまった。


「じゃあ、お店ピックアップしてるから、明日行こうね。これからよろしくね秋庭さん」


「・・うん」


なんだか、相手のペースだ。


教室に帰ったら、クラスの中の陽キャ側のやつが春田に近付いてきた。


そして春田の嘘ストーリーが始まった。


「春田くーん、秋庭さんとどこ行っていたのかな」


「ちょっと相談があってさ」


「え、なになに」


「俺って陰キャすぎたでしょ。脱出したくて髪切ったけど、次の手段が分からないんだよ」


「へえー」


「誰かに聞くなら、陽キャの頂点に相談ってね。思い切って秋庭さんに何していいか聞いたんだよ」


普段は喋らない春田の弾んだ会話に、何人かクラスメイトが集まってきた。


「ええー、それで秋庭さんに相談って、春田君すげえな」


「隣の席になったときに話せたし、ここがチャンスかなってね」


「秋庭さんと春田君って会話してたっけ」


「おはよう、さよならを除いて、1か月半で3回も会話したよ。だから立派な友達っしょ」


「すげえ、そのメンタル!」

「勘違いも、そこまでいけば長所だろ」


みんながどよめいたあと、私の意見をみんなが待ってた。


「春田があんまりしつこいから、たまに付き合ってあげることにしたんだ」


再び教室内がどよめいた。


「すごいね・・春田君」


「俺の情熱あふれる春田流ド・ゲ・ザのなせる技だね」


「泣きついたのかよ!」


みんなが笑った。


これで、普段から春田と話をしても不自然じゃない形が出来上がった。


嘘告なのに、なんだかこっちがペースに乗せられている。


放課後、みんなが注目してたのに、用事があった春田が急いで帰った。


で、火曜日に一緒にクレープ屋を食べに行った。


2つ離れた駅の駅前で私もちょっと聞いたことがあるお店だった。



春田のやつ、なんて言うか女慣れしてた。彼女がいたっていうけど、かなり深くつきあってたみたいだ。


ギャル歴1年の私とは違う。板に付いてた。


ま、クレープはおいしかった。



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