第24話「ケーキを分けない」

 十一月八日。アイドルマスターSideMの担当アイドルと、ガチ恋粘着獣の推しの誕生日。

 推しの顔のプリロールのケーキが届き、推しのぬいぐるみとともに撮影した。

『隆文、ギンガケーキだよ。ギンガケーキ、隆文だよ。誕生日おめでとう!』とツイートする。

 その後、撫子はケーキを食べた。生クリームと黄桃が美味しい。

 こんなん、いくらでも食べられるな。

 撫子は、人生で初めてケーキをひとりでワンホール食べたが、またやりたいと思った。

 ケーキのワンホール食べ・バケツプリン・バケツアイス。甘党の夢である。

 誰かとケーキを分けたいなんて思ったことないもんね。

 宇津見撫子のケーキは、親に勝手に分けられてきたが、本当は全くそんなことをしたくはなかったのだ。

 翌朝。ソシャゲにログインしてから、朝食を食べ、今月に入ってから毎日二篇書いているお題小説を片付ける。

 意外と、撫子は継続的な努力が出来る物書きだった。

 個人サイトとTwitterとpixivに作品を出して、朝活は終了。

 時刻は、七時。リビングのソファーに寝転がり、二度寝する。

 十一時頃に起きると、スマホにメッセージが届いていた。

『午後に遊びに行く』と、ユウ。

『りょ』

 返信をしてから、昼食にした。

 そういえば来月、コンビニでビリヤニとシュクメルリが販売されるようだから、買いに行かなきゃなぁ。期間限定の雪見だいふくも出るし。

 そういう情報は、撫子のタイムラインを覗いていれば、自然と集まってくる。

 緑は、十二時頃に起きてきて、労働の悪口を言いながら支度を始めた。

 そして、十三時前に家を出る。


「いってくるよ」

「いってらっしゃい」


 数分後、森野ユウが宇津見家に来た。


「よう。元気か?」

「低気圧と気温差で死んでる~」


 撫子は、ティーバッグのブレンドティーを淹れて、ユウにマグカップを渡す。

 ふたりでソファーに座り、オタトークをした。


「仮面ライダーガヴがずっと面白くて」

「へぇ」

「あと、スメルズライクグリーンスピリットとベビエブとつづ井さんと海に眠るダイヤモンドも見てる」

「多いな」


「こんなにドラマ見てるの珍しいよねぇ」と、撫子は笑う。


「つづ井さん見てると、オタク友達の大切さが身に染みるよ」

「緑とアタシか」

「もちろん!」


 ふたり以外で、誰が、カスの田舎から出てポケセンまで付き合ってくれる? 誰が、推し語りを聞いてくれる?


「あと、最近毎日小説書いててぇ。偉くない?」

「偉いな」

「ありがとう! 今月は、カクヨムコンもあるし、頑張るよ」


 撫子は、書いたものが賞をもらったことがない。授業中に褒められたことくらいしか。

 シンプルに賞金が欲しい彼女は、遊ぶ金欲しさにペンを持っている。


「賞金もらえたら、ホールケーキ二個買って、ふたりで食べようね」

「そりゃいいな」


 ケーキは分けないけれど、同じ体験はしたい。撫子が持つ友情は、そういうものだった。

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