第22話「ヤバい住人」

 依然として、宇津見姉弟が住んでいるマンションは、治安が悪かった。

 最近は、ベランダからエアガンを撃っている者がいると通報され、エレベーターの中に貼り紙が掲示されている。

 ある日、撫子がコンビニで、アイスとグミとイクラおにぎりを買って帰宅しようとしたら、エレベーターの扉をガンガン蹴っている男と遭遇した。

 ヤバい人だ。絶対に密室でふたりきりになりたくない。

 そう考えた撫子は、階段で二階まで登り、男がエレベーターで四階へ行ったのを確認してから、エレベーターを呼び出して、自宅へ帰った。

 あー嫌だ嫌だ。

 撫子は、このマンションの住人が嫌いである。

 気を取り直して、買ってきたものを食べる撫子。

 美味しい。“大丈夫”になった。

 少し前、漫画の大丈夫倶楽部を読破し、撫子は“大丈夫”の研鑽をするようになっている。

 撫子は、うつ病であり、不安障害持ちではあるが、己を“大丈夫”にすることに関しては比較的得意な方だった。つまり、自分のご機嫌を自分でとれるのである。

 ただし、人の金を盗むので、“悪”ではあるが。

 九月も、やっぱり緑から何万円も盗んでいた。

 八月にSeriaでドールの素体一式を揃えてしまってから、ドール沼にズブズブとハマっている撫子。ドールのウィッグや衣服や靴や小物を買い、金を溶かしている。

 それに、ドールのチェキを撮りたくなってしまい、チェキカメラや背景ボードの購入も計画していた。

 今月は、キャリア決済の限度額いっぱいまで金を使ってしまったので、来月購入するつもりである。

 また、お香にも手を出したので、素敵な瑠璃色のお香立ても買いたいし、仮面ライダーガヴのせいで平成で卒業したはずのニチアサに復帰したので、おもちゃが買いたいし、学園アイドルマスターの担当アイドルのシングルCDも買わなくてはならないし、紅茶の香りがするネイルポリッシュも買いたい。

 撫子は、人生が楽しかった。自分本位を極めているからである。

 しかし、盗みや詐欺まがいのことよりもマシなこともしていた。

 文筆家とVtuber活動である。それなりに依頼もくるし、配信でも金が入っていた。

 相変わらず預金はないが、欲しいものは全部手に入れている。

 文通相手もひとり増えたし、少し秋めいてきた日に、久し振りにシーリングスタンプをした。トンボ・クラゲ・クジラ・タツノオトシゴ・イルカの封蝋を作る撫子。

 十月から、郵便料金が値上げになるのは痛いが、文通をやめる気はない。

 撫子は、相変わらずだった。

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