第21話「親のクレカ」

 七月にエアコンが壊れ、扇風機を独占してしのいだ撫子。

 新しいエアコンが取り付けられた際に、とあるサービスのチラシを受け取った。動画配信サブスクが三ヶ月無料になるらしい。

 しかし、クレジットカードが必要だった。撫子も緑も、クレカを持っていない。

 そこで、撫子は、母親のクレカを借りることにした。

 それが、後々緑の怒髪天を衝くことになる。

 賢しい撫子は、親がクレカの情報を入力した画面をスクリーンショットしており、それで買い物をしたのだった。好きなキャラのアクリルキーホルダーふたつと、可愛いネイルポリッシュ五本セットを購入。

 次に母と会った時に、使った分の金を、「ごめーん」と言いながら返した。

 特に口止めはしなかったが、緑に喋らないことに賭けたのである。

 結果。撫子は賭けに負ける。

『今日はお前の命日』と、撫子のスマホに、緑からメッセージが届いた。

『なんで~?』

『悪気なし』

『あ』

『ごめんなさい』のスタンプを送る。

 通院から帰宅すると、緑に詰られた。

「お前は、一銭も使えないの!」

「はい」

「言い訳は?」

「パソコンが壊れた時用の金を使いました」

 そんなものはない。

「ふーん。それ、俺に預けといた方がよくない?」

「ごめーん」

 撫子は、ひたすら謝り倒した。

 緑の小言を聞き流し、親のクレカを使うのはもうやめよう。そう思った。

「なんで、やっちゃったワケ?!」

「心が病気だから?」

「でも人は殺さないだろ!」

「ごめーん」

 緑は、溜め息をつく。

「もう方法も思い付かないし、しないよ~」

「思い付いてもやるな!」

 もっともな意見だ。

 翌日。

「ユウちゃん、遊ぼ~」

『いいぜ』

 公園で落ち合い、ふたりでベンチに座る。

「見て~。親のクレカで買ったネイル。金は返したけど」

「キレイな色だな」

「白鳥の湖モチーフなんだって」

「へぇ」

 撫子の爪は、深い湖のような青緑色をしている。

「今度さぁ、映画観に行かない?」

「ん。足になってやるよ」

「やったー! ラストマイルとモノノ怪観ようね!」

「おう」

「私がいれば、千円で観られるよ~。まあ、私はパンフ買うからアレだけど」

 後日。都会の方へ出向き、映画館にて。

 映画の半券と共に、ぬい撮りをする撫子がいた。

「ラストマイルよかったね。私たち、めちゃくちゃ通販するから、色々考えちゃうね」

「そうだな。カスの田舎じゃ、そうしなきゃ生きらんねぇし」

 その後に観た「劇場版モノノケ怪 唐傘」は、シスターフッドな内容で、ふたりは満足する。

「私たちは、ずっと一緒にいようね、ユウちゃん」

「はは。まあ、別に構わねぇよ」

 同じ泥沼の中で、手を繋いでいたい撫子だった。

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