第19話「誕生日おめでとう」
六月は、宇津見撫子の誕生月である。
誕生月は、稼ぎ時だ。
金蔓の男たちに、通販サイトの欲しいものリストを送り付ける。
そうして手に入れたのが、書籍六冊とお菓子十箱とブルーレイ一枚だ。
『ありがとう~♡』と、メッセージを送り、感謝と喜んでいるアピールをするのも忘れない。
誕生日当日には、父が訪れ、手土産のロールケーキと一万円をくれた。
その一万円は、緑が見ている前でもらったので、父が帰るや否や差し押さえられてしまったが。
「俺が言わなきゃ渡す気なかっただろ?」
「えへ」
「俺が言うまでもなく、金を手に入れたら渡せよ! クズ!」
「はーい」
近々、母方の祖母からお祝いされる予定があるのだが、金をもらっても黙っていようと決めた。
そして、久し振りに会った祖母は、お昼を奢ってくれると言う。
焼き肉がよかったが、夜からしかやってないので、サイゼリヤへ行った。
ラム肉串を四本・アスパラガスの温サラダ・フォッカッチャ・ソーセージピザ・生ハムとモッツァレラチーズ・トリフアイスを食べる撫子。
「撫子ちゃん、美味しいかい?」
「うん!」
「よかった、よかった」
祖母のご機嫌取りも、きちんとこなした。
母と共に来たので、親子三代が揃っている。宇津見撫子の親族は、ふたり以上揃うと最悪な空気になるのだが、やっぱり今日もそうだった。
母が宗教の話をして、祖母が否定し、いがみ合う。撫子は、出来るだけ右から左へ聞き流し、食べるのと、持ち歩いている推しのぬいぐるみと料理を一緒に撮影し、Twitterに上げた。
「撫子、百均に行きたいんだよね?」
「うん。行きたい」
「じゃあ、ばあちゃん、奢ってあげる」
「ありがとう!」
食後、三人で百均へ向かう。
撫子はカゴの中に、目当てのぬいぐるみ用の服や小物をドサドサ入れた。ポケモンfitのための夏コーデが出来る。
それから、シーリングワックスとシールとマスキングテープも会計のことを考えずに複数個入れた。
そして、祖母の金で会計を済ませ、店を出る。
「撫子ちゃんは、安いもので幸せになれて偉いねぇ」と、祖母が皮肉のようにも聞こえる台詞を言った。別に皮肉ではなく、素で失礼なだけである。若い頃に大量消費時代を過ごした祖母は、そういう人なのだ。
その後。祖母宅へ戻り、ご祝儀袋に入れられた一万円をもらった。
「はい、どうぞ」
「おばあちゃん、ありがとう!」
帰り際には、庭で採れたキュウリを二本もらい、母の運転で自宅へと帰る。
「ねぇ、今日の時給は?」
「今日は、そういうんじゃないでしょ」
「じゃあ、誕生祝い! 誕生祝い!」
「いくら?」
「三千円」
「はいはい」
危なかった。来月の診察代が足りなくなるところだった。
というのも、祖母からもらった金は、もらう前に推しのフィギュアを予約して亡きものになっていたからである。
「じゃあね」
「はい、ありがとう」
母と別れ、休みを過ごしている緑の元へ帰った。
「ただいま! ババアのババアの金で、サイゼでドカ食いして、百均で爆買いしてきたよ!」
「ババアのババアってなんだよ」
「だって、うちらが母をババアって呼んでるから、そうなるでしょ」
「まあね」
撫子は、上機嫌でシャワーを浴びて着替え、買ってもらったものを広げてニヤニヤする。
ポケモンfitのマスキッパにアロハシャツとビニール鞄とサングラスと浮き輪を身に付けさせて撮影し、いつもより多くのいいねを稼いだ。
ご祝儀袋は、ゴミ箱の奥に捨て、証拠隠滅。
完全犯罪である。
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