第16話「手土産」

 実父が、病院へ行くついでに、ふたりの家に寄ると言うので、いつものように手土産をリクエストした。

 ペヤング、オーケー。カルパス、オーケー。は……?


「ちょっと、これ、ピスタチオとガーナじゃん! 私が頼んだのは、meijiのピスタチオチョコレートなんだけど!」

「いらないなら、返して」

「嫌!」


 父親にムカつきながら、くれたものは返さない姿勢の撫子。面倒くさがりだから、ピスタチオの殻を剥くのが嫌だった。


「よく見たら、カルパスは辛口だし~! 食べられるけど!」


 文句を言いながら、全部食べる。

 やっぱり、殻を剥くのは面倒だった。この世には、「ピスタチオ剥いちゃいました」はないのか? 撫子が知らないだけで、あるのかもしれない。

「変わりはないですか?」と、父親が撫子に訊く。緑は、まだ寝ているからだ。


「別に何も。低気圧だと死ぬけど」

「そう。ちゃんと運動しなさいよ」

「散歩してるし」


 姉弟の実父は、パチンコがやめられなかった、元ギャンブルクズで、不倫相手と再婚したカスである。あまり偉そうな口を利くなよ、と撫子は思った。

 こんな奴が、なんで公務員やれてんだよ。

 公務員が多い血筋に生まれた異端者は、疑問を浮かべる。

 父親の相手もそこそこに、撫子はスマホでタイムラインを眺めた。

 今日の炎上は、推し活失敗noteか~。

 正直、他人事ではない。

 撫子は、“推しVの推しV”が嫌いな傾向がある。嫉妬や、その他のどす黒い感情で、獣になりそうになることもあった。

 だって、私を見てくれる推しがいいんだもん。

 そういう考えだから、小規模なコミュニティのVtuberばかり好きになる。


「じゃ、もう行くね」

「ああ、うん」


 父親の存在を忘れていた。

 スマホを眺めたまま、父を送り出し、鍵をかける。

 土産を置いたら、さっさと帰ってほしいのは、両親に共通するところであった。


「緑、起きてんでしょ? ジジイ行ったよ」

「おはよう」

「私だけに押し付けないでよ」

「めんどいんだもん」


 悪びれもせずに、ボサボサ頭の緑は言う。

 撫子は、溜め息をつき、今日なにをするかをTwitterのアンケートに委ねた。

 十分後。結果は、ゲームをする、だった。

 積みゲーは、三十本くらいある。比較的精神力を使わないで済むビジュアルノベルゲームをやることにした。

 それは、いわゆる男性向けエロゲである。エロゲの男キャラからしか得られない栄養素があるため、撫子は、昔から好んでいた。

 エロゲのBLエンド、乙女ゲーの親友エンドなども好きである。

 プレステの頃によくあった、男女兼用恋愛ゲームも好きだ。

 ゲームなんだから、性別関係なく落とさせてよ。

 撫子は、どこまでも欲張りだった。

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