第14話「治安終わりマンション」
ふたりが住むマンションは、治安が悪い。
ペット禁止なのに、犬猫を飼っている者がいたり、猫砂をトイレに流す者がいたり、ベランダから煙草を捨てる者がいたりする。掲示物は、そのまま貼るとビリビリにされた。
それに、カスの田舎では一番高い建物なので、たまに飛び降り自殺者が出る。最悪だ。
撫子は、マンションの住人たちを信用していないので、郵便物がポストからはみ出ていた時は、肝を冷やした。
マンションの隣のコンビニからゴミ箱が消えたのも、住人のせいではないかと疑っている。
撫子が、ついつい大きな声で歌を唄ってしまった時、隣の者に壁ドンされた。その癖、隣は、謎のタイミングで壁を殴打する音を連続して響かせるものだから、「ふざけんな」と思っている。
また、宇津見家の風呂場をリフォームした際は、隣に工事をする旨を伝えたのに、向こうは何も知らせずに工事をするから、腹が立つ。
平日の真っ昼間だから、誰もいないと思っているのだろうか?
残念ながら、撫子は大抵家にいる。
さらにムカつくことに、このマンションには、よく鳩が来るのだ。そして、ベランダに糞をしたり、巣を作ったり、卵を産んだりする。法で守られてなかったら、殺してるからな、と宇津見姉弟は憎んでいた。
鳩ども、隣のベランダにだけ来い! 糞撒き散らせ!
撫子は、呪詛を唱える。彼女が呪術師だったら、この世は大変なことになっていただろう。
隣がうるさい昼下がり。撫子は、親友を呼ぶことにした。
ユウちゃんとパーティーするもんね。
口端を吊り上げる撫子。
家にユウを呼び出し、ふたりで、それなりに音がいいスピーカーで映画を見た。
宇津見姉弟は、PS4で、撫子が契約している動画サービスを利用している。
今日は、撫子のオススメのバカ映画を流した。両手に拳銃をつけられてしまった男を、ダニエル・ラドクリフが演じている。
「おもろ」
「ねー」
ユウも、ガンズ・アキンボを気に入ったようだ。
映画鑑賞を終えたふたりは、コンビニへ行き、好きなものを買い込む。
ポテトチップス・ポップコーン・チョコレート・カルパス・カップ麺・アイスクリームなど。
そういえば、このコンビニの物は、全部俺の物だと思って生きてると、緑が言っていた。自分の倉庫のように思っているらしい。
撫子は、財布から。ユウは、スウェットのポケットから。金を払った。
撫子が持参した推しのモチーフのエコバッグに買った物を入れて、ふたりで持つ。
自宅に戻った撫子は、「さあ、パーティーだよ!」と言った。
取って置きの紅茶を淹れ、ふたりで、もぐもぐと食べる。
「バターは、入ってれば入ってるだけ美味しいからねぇ」
撫子は、塩バターポップコーンを食べながら言った。
「バターは、ガキの頃、冷凍して食ってた。アタシは、それをアイスだと聞かされてたんだ」
「それ美味しいの?」
「美味いぞ」
「へー」
いつかやってみようと考える撫子。
「カップ麺、私、シーフードでいい?」
「いいぜ。アタシは、カレーにする」
ふたりで過ごしていると、あっという間に時が過ぎた。
「今度、ユウちゃん家行っていい?」
「おう。なんもねぇけどな」
「ユウちゃんがいるじゃん」
今夜は、さよなら。また遊ぶ時まで。
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