第13話「元カレ」
撫子は、一度だけ恋人がいたことがある。
今では、死んでほしいと思っているが。
Twitter・メッセージアプリ・配信アプリなど、全てのアカウントでブロックしている。
結婚を前提に付き合っていたのに。
撫子も元カレも精神疾患持ちで、彼女ばかりがケアをさせられていたため、破局したのだ。
千葉のカスの田舎から、名古屋まで会いに行ったこともあったし、引っ越し先の東京の町田まで行ったこともある。元カレは、撫子の元に来てはくれなかった。
撫子には、それが不均衡に感じられて。努力が釣り合っていないと思って。彼氏を捨てたのだ。
撫子は、人間関係に損得勘定を持ち込むタイプであるから、無理もない。
私がしてあげた分、返してくれなきゃ嫌。
昔から、そう考えていた。
今日、自称アクセサリーデザイナーの無職の元カレにもらったペンダントの存在を思い出した撫子は、それをフリマアプリに出品する。
死にさらせカス~! と、念を込めてスマホをタップした。
撫子は、された仕打ちを根に持つし、生涯呪うのだろう。
現在、五人ほど死んでほしい人間がいる撫子だが、ユウがいなければ、もっといたであろうことは想像に難くない。
やはり、ムカついた時には、すぐさまキレるべき。というのが、撫子がユウから教わった大切なことである。そうしないと、恨み辛みを一生引きずるから。
カスの煮こごりの無料チャットアプリで、バストサイズを訊いてきたり、ドM調教したいと言ってくるクソ野郎どもには、「セクハラやめろ」と言うし、すぐにブロックする。
そういう、話が通じない奴らは、往々にして金払いも悪いのだ。まともにやり取りをするだけ、時間の無駄である。
また、撫子は、匿名の悪意にも怯えることはなかった。何を言われようが、匿名の“ご意見”を聞いてやる謂れはない。
Twitterのタイムラインにお焚き上げして、「おっ? 喧嘩か?」とか「進研ゼミで見たカス匿名投書!」とかツイートして終わりにしている。
いつも心に、折れないペンを。ついでに、金属バットを。
それが、宇津見撫子という人間だった。
フリマアプリに、好きなジャンルのくじを引いてやって来た迷子たちを出品し終えた撫子は、大きく伸びをする。
晴れているし、風も強くないから、ベランダで茶葉スティックを吸うことにした。
通販で茶葉スティックが届いたその日に、換気扇をつけ、リビングで三本吸った時には、帰宅した緑に、「煙草臭せぇ!」と怒鳴られたので。
灰皿がないから、醤油皿で代用している。灰と吸い終えた煙草がたまっていくのが楽しい。
撫子は、一本吸った後、灰皿をキッチンのガスコンロにあるグリルの中にしまった。
グリルなんて使わないから、それで問題ない。
後日、緑にバレて、「殺していいか?」と言われるが、撫子はへらへら笑っていた。
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