第11話「ふたりのお茶会」

 撫子と緑は、一週間分の食料を生協で注文して家まで運んでもらっている。ふたりとも、基本的に料理はしない。撫子は、家庭科全般が不得意であり、緑は、仕事で調理してるから、家でまでやりたくないそうだ。

 撫子は、たまに緑の分の食べ物をパクっていた。「美味しい~」となった冷凍食品を、こっそりふたり分食べて、空き袋をゴミ箱の奥にシュート。ほとんどバレない。

 緑は、たまに職場から撫子に土産を持って来てくれた。ふたりが買わないようなお菓子や、余ったパンやパウンドケーキなど。

「ありがとう~!」と、満面の笑みで、撫子はお礼を言い、すぐに食べる。

 撫子は少し前に、推しキャラとコラボした讃岐うどんを食べる際に鍋を焦がした。そして、緑に“鍋使用禁止令”を出されている。

 それもあって、彼女は、米を炊く以外のことをしない。やたらある推しキャラや作品イメージのティーバッグは、マグカップに入れてレンチンしたお湯で飲んだ。

 まれに、姉弟でお茶会をすることがある。

 今日が、その日。撫子が紅茶を提供し、緑がクッキーを用意した。

 大抵は、ポケモンやジョジョや進撃やベセスダのゲームの話をして終わる。他には、各々の一次創作ファンタジー語りもした。ふたりのファンタジーは、相容れない。

 撫子のファンタジーは、ファンタジーの皮を被ったSFで、緑はそれが気に食わなかった。

 緑のファンタジーは、下地はSFだが、地球とは別の星を舞台にしたもので、撫子のファンタジーは、地球が舞台だ。その方が都合がいいから。

 シュミが合わねぇ~。

 ふたりは、同時に思った。

 ベセスダのゲームで、どちらかと言えばFalloutが好きな撫子と、The Elder Scrollsが好きな緑。まあ、そうなる。

 書いた小説をネットに公開し続ける撫子と、自分の考えた世界をどこにも出さない緑。彼は、本当に人間と関わりたくないのだ。


「撫子、よくあんなに人と関わるよな」

「お前が関わらな過ぎなんだよ」


 撫子は、よく通話アプリでTwitterのフォロワーと話している。話しながら小説を書けるので、大変助かっていた。その通話アプリは、今月にサービス終了するが。

 Discordに自分のサーバーがあるため、そこで暮らそうかな、と考えている。夢創作者を集めた撫子のサーバーには、六十人ほどいた。

 撫子は今年で、Twitter(彼女は、この呼び方を生涯続けるつもりだ)に張り付いて十五年目だし、MastodonもMisskeyもBlueskyもやっているインターネット漬けオタクである。

 撫子は、わりと人間が好きだった。

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