第8話「ダチ」
櫛を通してないボサボサの長い黒髪の上に黒いキャップを被り、寝て起きた時の黒いジャージのままで、百均で買ったサンダルを履いて、家を出た。
最近作った紫色の痛バを肩にかけた撫子は、近くの公園へ向かう。
そこには、煙草を吸いながらシケモクを拾い集めている女がいた。彼女は、染めた金髪をひとつに結び、黒いスウェットを着て、ハローキティのサンダルを履いている。
「ユウちゃん!」
「ん? よう、撫子。元気か?」
そう訊きながら、吸っていた煙草を携帯灰皿に入れた。撫子が、気管支が弱いからである。
「相変わらず、低気圧に負けてるよ」
「そうか。アタシは、元気だよ」
「見て見て、私の煙草~」
森野ユウは、友人が鞄から取り出したものを見て、驚いた。
「お前、VAPEは?」
VAPEとは、撫子が愛用している、ニコチン・タールなしの電子煙草である。
「やめてないよ。これね、茶葉スティック」
「禁煙グッズじゃねぇか」
「紙煙草に憧れがあってさぁ。これなら、私も吸える」
百均で買ったライターを取り出し、茶葉スティックに火を着けてくわえる撫子。
「ふぅ。カッコよくない?!」
「まあな。パッと見は煙草だからな」
「でしょ~」
撫子は、嬉しそうだ。
ふたりで並んで、ベンチに座る。
「ユウちゃん、最近は何してた?」
「バイト」
「偉ーい」
ユウのバイトとは、大麻を育てることだ。撫子には秘密にしている。
「そういえばさぁ、この前、推しキャラのコラボ日本酒飲んだんだけどね、やっぱりダメだった」
撫子の言うダメとは、美味しくないし、酔えないという意味だ。ちなみに、酒を飲むことは、服薬の関係で医師に止められている。
「懲りねぇな。ワインもウイスキーもウォッカもダメだったじゃねぇか」
「日本酒は、ちゃんとしたの飲んだことなかったからワンチャンあるかなって。あとさ、カフェイン200㎎のやつ飲んだんだけど、全然キマらなかったわ」
「そうか」
「もう、大麻やるしかないよ~。人生最悪なんだから、やってらんないよ~」
「ヤクはやめときな」
神妙な面持ちで、ユウは言った。
「てか、ユウちゃん、スマホどうしたの? 全然連絡つかなかったけど」
「あー。ぶっ壊された」
「誰に?」
「親。なんか酒飲んで暴れだして」
「親ってカスだよねぇ」
「そうだな」
ふたりは、幼稚園の時に撫子が引っ越して来てから、中学校まで同じで。なんとなく気が合うので、つるんでいる。
オタクの撫子と、ヤンキー然としたユウだが、実は、ユウもわりとオタクなので、話が合う。
この田舎には、娯楽があまりないので、大なり小なりみんなオタクなのだ。
「今は、何見てる? アニメ」
狐と同じ発音で、アニメと言うユウ。撫子は、狸と同じ発音をする。
「アニメはねぇ、ちいかわとダンジョン飯は追えてる。ユウちゃんは?」
「アニメは、全然。漫画は、ウィンブレ」
「私も読んでる! メカクレ目当てで読み始めたんだけど、杉下くんが可愛い」
「アイツは、気合い入った奴だ。アタシは、椿が好きだな」
「椿ちゃん、いいよね! 好きを貫いてる人好き~」
ウィンドブレイカーは、アニメ化が控えているヤンキー漫画だ。
ふたりは、仲良くオタク話に花を咲かせる。
日が暮れるまで、そうしていた。
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