第6話「撫子の夢」
金が足りない。
今月届くものが、予想外に多く、預金が百八十二円しかない。
撫子は、予約注文したものが、いつ届くのか全く把握していなかった。なんとなく大丈夫だろうと思っていた。いつもそうだ。
仕方ないので、弟が寝ているうちに、金を“借りる”ことにする。
緑の部屋へ行き、金が入れてある封筒がある場所を探った。そして、札束から三万円抜く。
どかした物を、きちんと元に戻してから部屋を出た。
あとは、素知らぬ顔で過ごせばいいだけ。緑は、残金を数えたりしないだろうから。
ちょろい盗みだった。
怪我や病気したら“終わる”なぁ。
撫子は、気を付けようと思った。
去年の十月の夜。撫子は、左脇腹が、内臓が捻じれているみたいに痛かったので、救急車を呼んだ。
車内で職業を訊かれ、「ライターです」と言った。嘘じゃないけど、真実でもない。
「文筆家です」とか「Vtuberです」よりは胡乱じゃないから、そう名乗るしかなかった。
あとは、「生ものを食べたか?」とか「便秘はしてないか?」とかも訊かれた。
そして、病院で血液検査と尿検査とCTをしたのだが、原因は不明。痛み止めと抗生物質をもらって帰宅した。
数日後、今度はかかりつけの病院の内科に行った。結局、腸が弱っていたらしく、整腸剤をもらった。
運動不足のせいらしい。
きちんと運動が出来るような人間だったら、会社勤めしてるわ。
撫子は、溜め息をついた。何も努力せず健康になりたい。
その後は、仕方なく、たまに散歩をし、食物繊維を摂るようにしている。
朝食時に、もずく酢のパックを開けて、飲み込んでしまわないように、ちゃんと咀嚼した。
そのお陰かは分からないが、脇腹が痛むことはない。
天罰の前借りだったのかな?
撫子は、弟の金を盗んだことを後悔はしていないが、そんなことを思った。
そろそろ金蔓を補充しようかなぁ。と考え、チャットアプリを開く。有象無象のカスがひしめくそのアプリは、性別を女にしていると、当たり前のようにセクハラメッセージや陰茎の画像が送られてくる、インターネットスラム街である。
撫子は、比較的話が通じるカスを捕まえて、連絡先を交換し、バーチャルキャバ嬢をした。
文才を、ろくでもないことに発揮している。
だが、ろくでなしから金を巻き上げることに、罪の意識など微塵もない。
私が幸せなら、それでよし!
撫子は、どこまでも自分本位だ。自分が死んだら、世界も滅びてほしいと考えているくらい。
『不老不死になりたーい』とツイートする撫子。それが、彼女の一番の夢だった。
SFのオタクだから、地球が終わるところが見てみたいし。
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