第5話「不倫ジジイ」
父親が、ふたりの家に来る。
月に一度、様子を見に来るのだ。もちろん、撫子は、手土産がなければ家に上げないつもりでいる。
『コンビニにいるんだけど、何か食べたいものある?』と通話で訊かれたので、撫子はパッと浮かんだものを伝えた。
「ペヤングとカルパスとスーパーカップ!」
『了解しました』
通話を終える。
緑は、まだ寝ているので、いつも撫子に電話がかかってきた。
五時起きの撫子に対して、緑は十一時起きである。
インターホンが鳴った。撫子は、ドアの鍵を開ける。
「おはよう。緑は?」
「寝てる」
「元気?」
「まあ」
素っ気ない返事。父のことも嫌いだ。不倫してたから。そして、その相手と再婚して、息子(撫子と緑の義理の弟)がいる。
手土産以外は、心底どうでもいい。
父は、母が置いていった宗教の新聞を、大きな溜め息をつきながら手にする。
「婆さんは、相変わらず?」
「うん」
元妻のことを、婆さん呼びするのも癇に障った。自分は、ババア呼びしているが。
少ししてから、実父は去った。
手土産のカルパスをいただく。気に食わない相手からもらったものでも、味は変わらず美味しい。
「ジジイ来てた?」
「おはよー。来てたよ」
緑が、目をこすりながら起きてきた。
「ペヤングとカルパスとスーパーカップあるよ~」
「うぃ」
ふたりが父母及び親族に思うことは、自分たちに最大限利益がある形で死んでくれ、である。
いとこたちは、公務員になったり、ファッションデザイナーになったり、結婚したりしており、“まとも”とされていた。ふたりは、親族の中では異端者であり、集まりには基本的に参加しない。
そのうち、いとこに子供が生まれて、お年玉をせびられでもしたら、堪ったものではないから。
存命の母方の祖父母も、古い考えの人間だから、姉弟とは反りが合わない。
撫子は、たまに実母に誘われて祖父母に会いに行くが、タダ飯と祖母からの小遣いと母が出してくれる時給(一時間千円)のためである。
そうでなければ、一切寄り付かないだろう。
最近、公務員になったいとこが、彼女と共同で犬を飼い始めた。可愛いシーズーである。
撫子は、鳩以外の生物はみんな好きだが、触れ合う気はない。傷付けてしまったら嫌だから。
親族がみんな嫌いでも、犬に罪はない。送られてくる犬の写真を見る時は、素直に可愛いと思った。
経済的なことや飼う手間のことを無視していいなら、撫子は、クラゲや蜘蛛やムカデやオオゲジやヤスデやポメラニアンやキンクマハムスターを飼いたい。
緑は、爬虫類チャンネルを動画サイトでよく見ている。でも、やっぱり生き物を飼うのは面倒だから、見るだけで満足していた。
生命の目的は、繁殖すること?
義理の弟が子を作らなければ、末代になるなぁ。なんて、考える撫子だった。
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