第3話「ふたり暮らしの理由」

 撫子が成人した頃、両親が離婚した。そして、それぞれ再婚して実家を出て行ったのである。

 家には、撫子と緑が取り残された。それから、ふたりは一緒に暮らしている。

 緑曰く、「金があったら出て行ってる」らしい。撫子は、今の生活を気に入っているから、「生涯、キョーダイで助け合って生きて行こうね!」と宣っている。

 そりゃあ、撫子には居心地がいいだろう。家事のほとんどは弟がやってくれるし、一日中ソファーの上でだらけていても怒られないし。

 日中、撫子は家にひとりになる。緑は、病院食を作るバイトをしているので、週に五日、十三時から二十時半くらいまでいない。

 撫子は、その時間何をしているかというと。体調が悪ければ、ずっと寝ている。

 大抵は、アラームもなしに、ぱちりと五時に起きて、ソシャゲと配信アプリのポイント回収をしながら、レンチンで出来る朝食を食べる。そして、推しVの朝配信を三件くらいハシゴしてから、趣味の執筆を千字ほどした。

 その後、少し眠り、昼食。弟が出勤してからは、Vtuberとして、配信アプリで二時間配信。時給は雀の涙だが、やらないよりはいいだろう。雑談(ほとんどはオタクトーク)したり、歌ったりする。あとは、文筆家としての撫子への依頼があれば、それをこなす。筆が早いので、あっという間に終わる。一度の依頼で、千円から三千円くらい儲かる。

 これが、彼女の仕事……らしきものであった。

 ロマンス詐欺(仮)の相手に餌をやることも忘れない。

 男に「会いたい」と言われたら、テキトーに理由を付けてかわす。しかし、何度もは使えないから、潮時だなと思った男は切ることにしている。そういう男は、直接会ってでないと何も贈らないと言い出すのだ。だから、あらゆるアカウントでブロックして終わりにする。

 弟に、借金が二百万円以上ある姉。もう一銭も使えないはずだが、何故か撫子宛の荷物が届き続ける。


「それ、俺のだろ。俺の金盗んで買ったやつだろ」

「違うよ~。おっさんから巻き上げたやつだよ~」

「乞食」

「いいじゃん、別にぃ」


 その後も、ダンボール箱は増え続けた。「これは、支払い済みのやつだから」「フィギュアって、忘れた頃に届くよねぇ」「知らないおっさんがくれた」と、弟に見付かる度に言い訳をする撫子。


「俺が善人だから、お前を殺さないだけだからな? 分かってんのか?」

「うん~。ありがとねぇ。好感度マイナス五百だけど、人類では一番高いんでしょ?」

「は? もう全人類の中でお前が最底辺だから」

「わはは」


 何笑ってんだコイツ?

 緑は憤慨した。

 一方撫子は、届いたメカクレ美女のフィギュアを棚に飾り、ご満悦である。スマホで写真を撮り、Twitterとインスタに上げた。

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