第2話「ロマンス詐欺」
ロマンス詐欺とは、好意がある素振りを見せて男性に近付き、投資を促すものである。しかし、撫子のそれは、少し違った。
使うのは、無料の通話・チャットアプリだ。それのアイコンを、ネットで拾ったそれなりに可愛い女の写真に設定する。性別は、女。年齢は、二十代にしておく。ちなみに、撫子の実年齢は、三十三歳である。
そうすると、バカみたいに男が釣れた。そいつらと、連絡先を交換して、ロマンスを売る。
そして、誕生日やクリスマスなどに贈り物をねだり、欲しいものリストから贈ってもらう。
撫子は、自分の姿も住所も晒さないで、これをやってのけた。
宇津見撫子は、美人ではない。地味な女で、日がな一日ジャージ上下で過ごすような人間である。化粧もしない。
釣れた男たちは、大抵はネットリテラシーが低いので、撫子のアイコンを画像検索したりはしないのだ。
バカだなぁ。と、撫子は思う。
ヤリモクっぽい男には、ネットで拾った顔の見えないオナニー動画を送り、「顔ありで見たかったら、三千円分のギフトポイントちょうだい」と言って、男が渋ったら「じゃあ、とりあえず半額の千五百円分送って、残りは動画見てからでいいよ」と言う。そして、千五百円もらって、トンズラするのだ。
また、いわゆるオナ電もする。電話越しにオナニーをし合うというものだか、撫子は演技で喘ぐだけで、体には一切触れていない。喘いでる振りをするだけで金がもらえるから、楽だなぁと思っていた。
ところで、撫子は、うつ病である。今は寛解しているが、閉鎖病棟に措置入院させられたこともあった。
また、気温差や気圧差に弱く、そんな時は、リビングのソファーの上で寝ている。もっとも、体調が良好であってもソファーの上には陣取っているが。
現在は、三月。暖かい日がきたと思ったら、急に寒くなったりするので、撫子は参っていた。
それでも、日課のソシャゲ八つと配信アプリ三つのポイント回収はする。
撫子には、推してるVtuberが複数いた。推しに認知されたいタイプなので、コミュニティが小規模な個人勢を推すことが多い。
ファンアートのデフォルメイラストを描いたり、許可を取ってから夢小説を書いたりしている。
推し活は、撫子の心に潤いをもたらしたが、たまに獣になりそうにもなった。というのも、「推しVの推しV好きになれねぇ~」とか「害悪リスナーがよ。担降りしろ」とか、色々不満もあるので。別に誰も攻撃はしないが、Twitterの鍵アカウントで愚痴を言う。
撫子と緑が住んでいるところは、カスの田舎で、映画館もカラオケも、昔潰れた。
撫子が、映画観たいな、と思ったら、母を足に使って行く。カラオケしたいな、と思ったら、配信アプリをつけて自宅で歌った。
田舎であるという点に目を瞑れば、撫子はこの家を気に入っている。
隣、コンビニだし。駅と郵便局と図書館と役場が近いし。
「文豪になりてぇなぁ」と、撫子は呟く。
時代が違えば、なれてたかもなぁと、半ば本気で考えていた。
石川啄木だってなれてるんだし。
彼女の座右の銘は、「一度でも我に頭を下げさせし人みな死ねといのりてしこと」である。
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