姉のクズ
霧江サネヒサ
第1話「生活費使い込み発覚!」
「撫子、二百万どこやったんだよ!」
弟に、名前で呼び捨てされるのは、常である。微塵も尊敬されてない。
「え、えへへ。ない…………」
「やけに物が届くなぁって思ってたら、これだよ! ふざけんな! クズ!」
金は、オタクである撫子が、全てフィギュアとかブルーレイとかアクリルスタンドとかぬいぐるみとか書籍とかにしてしまった。
「ごめーん。ちょっとずつ返すから、ゆるして」
「月にいくら返せるんだよ?」
「いや、二ヶ月に二万」
「少ねぇ! お前が生きてる限り、金がかかるの! それじゃ、借金減らねぇぞ!」
「ごめーん。稼げたら、多く払うからさ」
撫子は、無職である。たまに、小説を書いたり、作詞をしたりして金を稼ぐが、彼女の生活費は、障害年金で賄っていた。
「でもさぁ、借金あると、文豪っぽいよね」
「殺すぞ」
「殺さないで~」
緑は、今殺した方が、損切りになる。真剣に、そう考えていた。
金銭トラブルによる身内殺し。よくある話だ。だが、こんなクズを殺して人生を棒に振りたくない。
「ちゃんと返せよ。あと、この金庫は没収」
「差し押さえ!?」
ハローキティの小さな金庫を持って行かれた。
中には、ピン札の一万円と二千円札が入っている。それから、記念金貨と判子とパスポート。あと、何故か撫子の髪が一房。
めんどくせぇことになったなぁ。
撫子は、そう思った。
携帯のキャリア決済で物を買い過ぎて、請求書が届いたため、口座に預金がないことが発覚してしまったのである。
えーと。二ヶ月毎に十四万円入るワケだ。そこから、ババアに払う家賃二万円引いて。緑に払う二万円引いて。医療費が、月に四千円くらい? あとは、スマホ代が五千円くらいと、サブスクふたつで月に千円?
まあ、なんとかなるか。
撫子は、数学が出来ない。あと、悪気もない。
欲しいものは、なんでも買ってきたし、これからもそうだろう。
全く反省の色がないが、緑にはバレないようにする。
「しゃあない。ちょっと稼ぐかぁ」
自室のベッドの上に座り、キープしている男に電話をかけた。
「もしもし? 元気?」
撫子には、別に付き合ってもいないどうでもいい金蔓の男が、複数人いるのである。
「そろそろ、出会って半年じゃない? 何か贈ってよぉ」
そう言いながら、通販サイトの欲しいものリストを送った。これを、何人かに繰り返す。すると、結構贈り物が届く。弟には、ストレートに「乞食」と言われるが、気にしない。
「出かける~」と、弟に声をかけてから、近所の公園へ向かう。
そこで、ビニールシートを広げて、処方された頓服薬を並べた。
「お姉ちゃん、なにそれ?」
通りすがりの男が訊く。
「キマるよ~」
「マジ?」
「ふわふわして気持ちいいよ~」
「買おうかな」
こんな感じで、全部売り切ると、結構な額になった。
帰りに、コンビニに寄る。期間限定のホットケーキ紅茶ラテと、カップデリと、スーパーカップを買った。
こうやって浪費するから、借金を抱えることになったのだが。
撫子は、上機嫌で帰宅し、コンビニの食べ物で幸せになれる舌でよかったと思った。
「はぁ?! なに買ってんだよ!?」
「これは、ポイントで買ったんだよ。ポイントは換金出来ないから、仕方ないでしょ」
フリマアプリを見ながら、しれっと嘘をつく。ポイントカードはあるが、使えるポイントはゼロだ。
宇津見撫子には、詐欺師の才能だけはある。
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