猫目の彼女と敏感な俺 -nightmare-

判家悠久

-nightmare-

 船が横乗りされ、目の前に立つのは、バイキングの大男だ。兜も合わせたら軽く2mになる。頑強な兜で表情が見えないが、大ぶりな戦斧で俺を嬲り殺す気は満々らしい。

 場所は、昔戦船に乗った頃のある、淡路島の内海の風光明媚そのまま。俺はやれやれになる。背後に恐らくいる主家を護る為だろう。ただ、俺が手にあるのは反り上がった太刀、何故世界観が中世設定になっているかよく分からない。


「グッガァーーー」ああ、悪夢がモロだ。


 大男が重い戦斧を振りかぶる。おいおい待てよ、そんなの振りかぶったら、俺達の戦船が真っ二つだろう、そうなると大男も溺れる筈だが、さて。俺は主家を咄嗟に護るために、太刀でその全てを受けようとしたが、やはりになるかだ。


 バン、太刀が重い戦斧の勢いでひしゃげる。そして力任せの2打目が、振りかぶられる。も打撃の軌跡は見えた。俺は咄嗟に心臓を庇う為に、左30cmやっとずれる。

 そして、重い戦斧の2打目が俺の右肩をバキンと砕く。なるほど思念次第で、筋骨はある程度固くなるのか。そして、右肺の上部を抉り、硬い筋骨が鈍い音を立てながら、やや右半身がぼたりと落ちる。さて、ここから締め技……


「Uh,nooooo-」英語の雄叫びが遠くに聞こえた。


 その声は、夢ではない実際の悲痛な叫びだ。

 俺の共鳴は、三沢キャンプのすぐそばの住民でも、もう慣れた筈だが、なぜに今更になった。来週、鹿児島県霧島のキャンプで会う主家曰く。


「悪人程、耳ざとよくなって、感受性が高まるのもどうかしら。それだったら道を踏み外さなくて良いものをね。太喜雄もそう思うでしょう」


 全くだ。

 俺の悪夢は酷いと言えば酷く、軽く300回は大怪我している。夢でも死に絶えないのは、難しい事を言えば、やたら長く、レクチャーしようがなく、そう慣れなんだよな。

 そうとは言え、今は盛夏の朝5時。二度寝しようかとしたが、精神と身体の完全同調代謝作用で、布団の寝汗がひどい。ぐっしょり。まあ、それは無いな。


 俺の祝延家屋敷は広い。俺は長すぎる縁側でゆっくり朝日を浴びながら、眠気をゆっくり飛ばして行く。これは毎日のルーチンで、どんなに短くても、朝日も雨も風も、その放つ自然のほとばしりを受け止めている

 祝延家は父祝延司郎が自由な内装業、ここは尊敬を込めてだが、主家筋の託宣を経て、2008年に派遣された。今となっては、東日本大震災の即応応援隊だったのだなとは思う。

 その2008年に、この南部家郷士公望家の住宅の内見をした。でも住宅どころか、カチコミの武士達を大広間にゆうに集める事が出来る。三沢の不動産紹介人曰く、三沢市の1割が外国人であり、誰もがジャパニーズ・クオリティの屋敷に入るも、たった1ヶ月で出ていくらしい。祝延さん、そこを何とか。当然、父司郎の腕が鳴るのを聞いた。

 そう、近代改修していないので、隙間風はビュービュー、何より広すぎてアメリカ人でも持て余すらしい。まあ三沢市は雪は少ないも雪国のそれだから、それはそうだろう。

 何よりは、俺が、今いる縁側で居心地良く眠ってしまったので、そのまま居間で契約の運びだったらしい。ここは子供ながらも、直感で迷惑掛けないだろうの不安から解放されたに違いない。


 そして不意に、姉祝延慶子がズカズカと、縁側の廊下を進んで来る。


「太喜雄、ご飯出来てるわよ。納豆、卵、海苔、白子、卵焼き、しじみ汁、Unlimited,Too fresh。本当三沢で生涯遂げたいわ」

「誰か、あてがあるの」

「無いなー、まあ普通に縁談かな。宿縁地東海方面に行っちゃうのかな。太喜雄とは寂しくなるわね」


 姉慶子が、やっと乾いた背中に張り付く。姉弟のスキンシップとかではなく、幼かった頃の俺の共鳴を塞ぐ為の融和措置だ。今はやや制御出来て、そういう事はほぼ無くなったが、姉慶子が嫁ぐとどうなるのかな、俺は。

 姉の柔らかな体温が上がる。不意の悪夢中の共鳴が拡張され、どうやら寂しいが、姉慶子に響いているらしい。掛け値無しの剥き出しの愛情から、今度はよく分からない縁談先に行くのは、どうだろう。姉慶子の性分を知ったら、がっくりしないかな。

 首が、真綿の様に締まる、ヘッドロック、後0.3秒で右腕がマウントされる、”ギブ”、気管が締まって声はでないものも、しっかり共鳴してるだろう、慶子、なあ。 

 俺は空いた左手で、縁側をバンバン叩く。慶子は愉快な笑い声を上げる。

 

さて、早々朝のイベントは終了し。大きな食卓に、祖母、父母、姉、俺が綺麗に揃う。共鳴の大きな朝は、特に整う為に皆が集まってくる。ここに在日米軍三沢基地の輸送ヘリパイロットの日系のスバル・ケーヒルも相席をする。スバルが同席ってことはやや難ありか。

 皆、淡々と食事をしながら、質素ながらも味わい深い準精進料理を食して整わせる。食べるのも修練だ。そして、どうしても右腕をさするのは、慣れているとは、鈍く光る重い戦斧にはどうして戸惑うだろう。そしてスバルが箸を置くと切り出す。


「太喜雄の共鳴で、緊急呼集があって、絶叫した、キャンプの不良外人が営巣に放り込まれた。身に覚えは、送り狼で不純異性交遊に至ったと」

「スバルさんさ、三沢は、ややアメリカなんだから、そういうミーハーも来るんでしょう」

「だからと言って、4Pには節度がない」

「スバルさん、私はいたいけな弘大生。弟は三沢聖心高校剣道部のエース。はしたない言葉で、心を揺さぶらないで貰えます」

「これはこれは、失礼しました。Just pure, unadulterated sex is sublime. Even Jesus recognized it and it is widely recognized throughout the world. Pure I say.」

「それ、しっかり私の目を見て言えるの」

「すまない。手厳しい日本語に動揺してしまって」


 また、unlimitedの朝食が再開される。美味しい事は良い事だ。ただ、この屋敷も広過ぎて、3.11以外はひっそりはどんなものかなとも思う。



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