第35話 逃げる



 すでに諦めてはいたけど、今回の件で俺はもう吹っ切れた。

 吹っ切れる以外に、自分の心を守るすべがなかったとも言う。


 監禁生活が始まり、一応は衣食住を確保しているが、それがいつ終わりを迎えるか分からない。むしろ秘密裏に消される可能性もあった。

 ポチだって俺を心配しているはず。家で一人待っている姿を想像して、俺は胸が痛くなった。


 ここで死んでいる場合じゃない。犠牲になんかなるものか。

 ポチのためにも、絶対にここから出てやる。


 俺は、この部屋から出るための計画を練る。

 その中で、成功率が高そうなものを選ぶことにした。


 食事は、いつも同じ時間に使用人が届けに来る。その際、扉が開けられるのだ。

 きっと、俺が抵抗しないと油断している。その油断を利用するつもりだ。


「気を遣わなくてもいいから楽だな」


 申し訳ない気持ちなんて持っていたら、逃げられない。

 そして、もうすぐ昼食の時間である。

 あと数分で、使用人が扉を開けるだろう。


 やるなら早く。


 俺はじっと扉の脇で待ち構えた。

 息を潜めていれば、気配を感じる。カラカラという音も微かに聞こえたので、昼食を運んできたに違いない。


 鍵が開けられる。

 扉がゆっくりと動くのを目で追って、俺はタイミングを伺った。


 ――よし、今だ。

 運んできた使用人が目が合った。

 驚いているところに、俺は勢いよく突進した。


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