第29話 父への願い



「お父様、ぜひお願いがあります。無茶なお願いはしません」


 さっさと話を終わらせてしまおう。

 こちらからの要求は一つだ。


「俺を勘当してください」


 元々いるかどうか分からないのだから、勘当する必要はあるのかは考えものだ。

 しかし言質はあるに越したことはない。


 まさか俺がこんなことをいうとは、誰も考えていなかったらしい。おかしなことだ。

 俺だって見限るのに。


 そもそも、あんなふうに冷遇されていて、ずっと家族にすがりつくはずがない。

 馬鹿じゃないのか。


「捨て置かれている俺ですから、勘当なんて簡単な話でしょう。そう思いますよね」


 淡々と口にすれば、誰かが息を飲んだ。

 いや、驚きすぎ。


「申し訳ありませんが、金銭は少しだけいただきます。ああ、心配しなくても迷惑をかけるほどではございませんので。それだけもらったら、二度と関わらないようにします」


 恭しく頭を下げると、俺は父の言葉を待った。

 どうせ答えは決まっている――了承の返事だ。


 しばらく頭を下げていたが、何も言わない。

 返事をする暇すら惜しいのか。

 それなら、さっさとどこかへ行ってくれれば、俺も姿勢を直せる。

 早くしてほしい。

 うんざりしていると、低く小さい声が聞こえた。


「勘当は認めない」


 父の声だった。


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