第28話 父との対峙



 父は、兄や弟みたいに無視もできない。

 この人は、怒らせてはいけないタイプだ。


「……お久しぶりです」


 笑えるほど、か細い声だった。圧に負けている。

 情けなくて、ここから逃げ出したい気分だった。それでも逃げられない。


 こうなったらやけだ。俺は微笑みながら父を見る。


 驚く気配。

 父も俺が変わったのを信じていなかったから、また何かしでかそうとしているのか伺っている。


 突き刺さる視線に、とりあえずポチに対するような甘さを出した。

 まだ部屋にいた弟も、目を見開いているのが視界の端にうつった。

 いや、全員何故か凄く驚いている。


 いい子でいた時は、ここまでの反応をしなかったのに。どういう心境の変化か。


 こっちがお好みなら、もっと弄んでやるか。


「ふふっ、こうやってお父様に会えて光栄です。家族団欒といったところでしょうか。ただ……俺にはもう、心に決めた人がいますので。ちょうど良かった。家を出ると伝えられて。もう知っているでしょうけどね」


 口元を隠しながら笑っていれば、場が静まり返った。

 俺がいないことは知っているはずだ。

 ポチとともに過ごしているのも隠していない。学園で過ごす俺の情報があれば、自然と導き出される答えだ。


 まさか、顔を見せないだけだと思っていたわけじゃないよな?

 誰も報告しなかったし、誰も俺の不在を気づかなかったなんて、さすがにありえない。


 もうこの家族は駄目だ。

 俺は見限ることにした。


 ちくりと胸が痛んだのは、きっと気のせいだ。


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