第23話 平穏



 凄く楽だ。

 こんなにも楽なのは久しぶりの感覚だ。


 生活レベルは落ちたかもしれない。

 それでも、あの家よりは呼吸がしやすかった。

 ポチとの二人暮しも、上手く回っている。


 ポチはかなり優秀だ。

 家事がひと通りできるので、仕事を分担させられるから不満が生じない。

 ポチとだけいればいいから、学園生活も楽しい。


 学園にいると、女王様という影口が聞こえてきたが、まったくもってその通りなので怒りも湧かない。


 むしろ、それらしく見えるなら満足だ。

 さすがに文句を言われるかと思ったが、家から何の連絡もない。

 どれだけ俺を放置しているのか。信じられない家族関係である。


 しかし放置されていた方が楽だと実感したのは、兄が目の前に現れた時である。


 ……というか同じ学校に通っているのに、今まで会わなかったのがおかしい話だ。


「おい」


 名前を呼ばれなかったから、俺のことじゃない。それなら返事しなくていい。

 俺はスルーして、ポチを迎えに行こうとした。


「無視するなんて、いい度胸じゃないか。お前、自分が何をしているのか分からないほど、愚鈍になったか」


 高圧的な物言い。

 人をイライラさせるのが上手い。


 前までであれば話しかけられた嬉しさを隠しながら、文句を言っていただろう。

 しかし今は違う。


「俺には、うるさいことばかり言う知り合いはいません。俺に家族はいません」


 独り言のように呟けば、絶句している気配を感じた。

 これまでと同じことをしたのに、ショックを受けられても困った話だ。


 俺は怒りに震えている兄に、冷たい眼差しを向けた。


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