第16話 俺が悪役だから



「な。何をっ」


 勢いよく胸を押され、俺はたたらを踏みながら後ろへ下がった。

 従成は唇を拭いながら、俺を睨みつける。

 それに対し、涼しい顔をして笑った。


「別に軽い挨拶だよ。子供だましにもならない。……それとも初めてだった?」


 どうやら図星だったらしい。顔を赤らめて、口を閉ざすので笑ってしまう。

 これで、主人公に捧げるかもしれなかったファーストキスが無くなった。

 どうしようと、俺が初めてだったのに変わりは無い。

 ざまあみろだ。


「ごめんね、俺が初めてで。まあ、俺は初めてじゃないけど。ファーストキス同士じゃなくて良かったと思おう。ね?」


 言葉は大したダメージにならないだろうけど、たくさんの傷を作りたかった。

 唇に触れて首を傾げる。


 さて、どうやって従成は怒るか。

 今度は掴みかかるだけでなく、殴られるかもしれない。それはそれで楽しそうだ。


 次の行動を根気強く待っていれば、従成が強く拳を握りしめた。

 もし殴られたら、ポチが心配するかなあ。慰めるのが大変かも。


 従成が近づいてくる。血管が浮きでるほど強く握りしめた拳だけ、俺の視界に入っていた。


 だから反応に遅れた。

 再び胸ぐらを掴まれて、そして引き寄せられる。


「!?」


 ぶつかるほどの強さで唇が当たり、ぬるりとしたものが隙間から入ってきた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る